山下敦弘監督『そこのみにて光輝く』佐藤泰志の芥川賞候補作を映画化
綾野剛が主演した『そこのみにて光輝く』の原作者・佐藤泰志の最後の芥川賞候補作「オーバー・フェンス」(小学館「黄金の服」所収)が、『味園ユニバース』などの山下敦弘監督によって映画化されることが明らかになった。
佐藤は中上健次や村上春樹とも比較され、芥川賞や三島由紀夫賞の候補に何度も挙がるが受賞には恵まれず、41歳で自ら命を絶った昭和の作家。熊切和嘉監督の『海炭市叙景』、呉美保監督の『そこのみにて光輝く』など、近年著作の映画化が続き、再び脚光を浴びている。
佐藤が小説を諦めかけ、函館の職業訓練校で過ごした経験を通して執筆した小説を下敷きにした本作は、函館の短い新緑の季節を舞台にした、幸せの意味を知らない男と鳥になりたいと願う女の大人のラブストーリー。「共に生きる」という普遍的なテーマで、山下監督が新境地に挑む。脚本を手掛けるのは、『そこのみにて光輝く』の高田亮。『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』で濃密な世界観をフレームに収めてきた近藤龍人が撮影を担当し、『マイ・バック・ページ』などでタッグを組んだ山下監督との盟友コンビが再び実現した。撮影は今年の初夏を予定している。
本作について山下監督は、「映画は空っぽになってしまった一人の男と求愛し続ける女の話でもあるし、函館の職業訓練校に生きる無職の男たちの話でもあるし、もしかしたら若くして死んでしまった佐藤泰志自身の話になるのかもしれない……というか“話”に固執せず、その瞬間を生きている人間たちの映画にしたいと思う」とコメント。「そうすれば自ずと僕自身の話になるし、観ているあなたの話になっていくのではないかと思う。『オーバー・フェンス』というタイトルが示す通り見えないけどそこにある何かを越えていく映画にしたい」と意気込んでいる。(編集部・吉田唯)
映画『オーバー・フェンス』は2016年にテアトル新宿ほか全国公開