新垣隆氏、ゴーストライター騒動を振り返る「音楽によって追い込まれ、救われた」
作曲家でピアニストの新垣隆氏が21日、渋谷のシアター・イメージフォーラムで行われた映画『抱擁』の舞台あいさつに登壇。メガホンを取った坂口香津美監督と、音楽が持っている不思議な力について語り合い、佐村河内守氏のゴーストライターであることを公表したときの騒動を振り返って、「音楽によって深刻な事態に追い込まれたんですが、同時に、音楽に支えられ、救われたと今は思っています」と明かした。
笑顔を見せる新垣隆氏 映画『抱擁』舞台あいさつフォトギャラリー
本作は、坂口監督の実母すちえさん(撮影時78歳)の4年間を追ったドキュメンタリー。まな娘と夫を亡くした悲しみに加え、認知症を併発し、精神的な危機に陥ってしまうすちえさんだが、故郷の鹿児島県種子島で妹・マリ子さんと二人三脚で暮らす中で、再び生きる希望を取り戻していく。
「わたしの母も数年前に病気をしまして、今は落ち着いている状態ですが、本作は自分の問題として観させていただきました」と自身の介護体験から話し始めた新垣氏。坂口監督との出会いは、ゴーストライター騒動より前の、2012年9月のクラシックコンサートだったという。また坂口監督の次回作『シロナガスクジラに捧げるバレエ』(今年9月公開)では作曲とピアノ演奏も担当する。
坂口監督は「お聞きしたかったのは、母は昔から古賀政男の『人生の並木道』、『泣くな、妹よ~』という歌ですが、これを愛唱歌のように口ずさんでいて、今もよく歌っています。わたしは歌が母を回復させた要因の一つと思っているのですが、新垣さんは音楽の力についてどう思われますか?」と新垣氏に問い掛ける。すると新垣氏は、「わたしの母もデイサービスなどで、知っている音楽が流れると自然に声が出るんです。音楽は人間の共有財産ですから、歌うと過去の記憶がよみがえるし、同時に、家族、友人、地域の人たちともつながれますよね」とコメント。坂口監督は「新垣さんもわたしも独り者なので、これから先の老後、孤立しないで社会とつながっていることが大事ですね」といたずらっぽく笑顔を見せていた。(取材・岸田智)
映画『抱擁』はシアター・イメージフォーラムにて公開中 その後全国順次公開