ホロコーストが一夜にして崩壊させる幸福な家族…S・カーティス監督がヘレン・ミレン主演作で描いたこと
映画『クィーン』でオスカーを受賞したヘレン・ミレン主演の新作『ウーマン・イン・ゴールド(原題) / Woman in Gold』について、サイモン・カーティス監督が語った。
同作は、第2次世界大戦中に親族が所有していたオーストリアの画家グスタフ・クリムトの作品がナチスドイツによって奪われたとして、当時その絵画を所有していたオーストリア政府を相手に、「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I」を含む絵画5点の返還訴訟を起こしたマリア・アルトマンさん(ヘレン)と弁護士ランドル・シェーンベルク(ライアン・レイノルズ)の奮闘を描いたドラマ。
ユダヤ系の家庭で育ったサイモンは、ユダヤ人コミュニティーへのアプローチについて「僕の両親は、ホロコーストが起きる前から英国に住んでいたため、今作のようなホロコーストの話はなかった。でも当時のウィーンに居たユダヤ人の家族やコミュニティーと自分を重ね合わせることはできた。勢いがあり、幸福だった家族が一夜にして崩壊していく状況を描くことは、僕には深い意味があった」と思い入れのある作品であることを語った。
ホロコーストを逃れたマリアさんへのヘレンのアプローチについて「今作の製作前にマリアは亡くなってしまい、僕もヘレンも彼女に会えなかった。でも(スティーヴン・)スピルバーグがマリアについて制作したインタビューの一部映像が、ホロコースト記念博物館に残されていた。ただ、ホロコーストの体験者の中には、あまりに残酷なことが起きて、それを語りたがらない人もたくさん居る。そのため、ヘレンもあるホロコーストの出来事は念入りに調べ上げ、逆にあるホロコーストの出来事はあえて何も調べなかった。そんな一貫性のないところがリアルで、むしろ心理的にも正しい体験に思えた」と語った。
前作『マリリン 7日間の恋』から4年もたったのは、「3か国の撮影でかなりの製作資金を必要とした。今作も前作も BBC Films によって企画されたが、いったん主演女優をキャスティングすると、ワインスタイン・カンパニーのハーヴェイ・ワインスタインが製作することになった。この契約が全ての(製作資金などの)問題を解決させてくれ、今作は僕やハーヴェイにとっても特別な映画となった」と明かした。
映画では、ホロコーストの生存者が自ら生きた証しとしてオーストリア政府に訴訟を起こしたマリアさんを、ヘレン・ミレンが見事に体現している。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)