描いたのは国家と人間、二種類の連続殺人犯…原作者が語る『チャイルド44』
1950年代、スターリン政権下のソビエト連邦において、子供を狙った連続殺人事件を追う男の苦悩を描いた映画『チャイルド44 森に消えた子供たち』。2008年に発表した原作小説でデビューを果たし、現在もベストセラー小説家として活躍する英国人作家トム・ロブ・スミスが、本作について語った。
実在した連続猟奇殺人犯アンドレイ・チカチーロの犯行をモデルに、死体に共通のしるしが残された44人の子供たちの殺人事件を捜査する国家保安局員・レオの姿を描く本作。犯人を追うミステリー要素以上に、スターリン支配下の共産党が掲げた「殺人は資本主義の病」という虚構に阻まれ、葛藤する登場人物たちの姿が強烈な印象を残す。
原作についてスミスは、「国民をあやめるスターリニズム国家について書いたもの」と証言。その上で、本作には「何百万人もの生命を奪う者(国家)と44名を殺害する者という、“二者”の連続殺人犯が存在する」と明かす。実際に劇中では、レオが妻にスパイ容疑がかけられ、国家に処刑される(殺される)危険を冒して彼女の潔白を主張するか、密告するかを迫られる場面が登場する。
その上でスミスは、劇中、国家という強大な殺人者に苦しめられる人々を演じた俳優陣を絶賛。中でも、レオ役のトム・ハーディと、レオの妻であるライーサにふんしたノオミ・ラパスのやりとりが気に入っているという。「ライーサはレオ、すなわち自分の夫を恐れているというのに、彼の方は、ほれられたと思い込んでいる。彼女が彼と結婚したのは、プロポーズを断って逮捕されるのを恐れたのが真相だったのに。映画の中で、そんな二人の関係に抱いていたレオのロマンチックな夢が粉みじんに砕け散る鮮烈な瞬間があるんです。あの演技は、見事な説得力に満ちていました」。
ちなみに、「この業界に入ってからいちばん素晴らしいプロモーションツアーは4年前の訪日でした」というスミス。「わたしが日本の皆さんに期待するのはこの映画、さらにはこの原作を初めとする(レオが主人公の)3部作やこの夏に出る新作を楽しんでいただくことだけです」と語ると、日本のファンに向け「それぞれの感想をわたしに伝えてくださるかどうかは、皆さん次第ですよ!」と呼び掛けた。(編集部・入倉功一)
映画『チャイルド44 森に消えた子供たち』は全国公開中
原作「チャイルド44」上下巻は発売中(新潮文庫)