塚本晋也監督、戦争に突き進む日本の現状に危機感
鬼才・塚本晋也監督が14日、有楽町の日本外国特派員協会で行われた『野火』記者会見に俳優の森優作と共に来場。「戦争に傾斜して突き進んでいる」と日本の現状への危機感を語った。
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原作は、第2次世界大戦末期のフィリピン・レイテ島を舞台に、極限状態の中で飢餓に苦しむ田村1等兵の姿を追った大岡昇平氏の戦争文学。
二十数年前から映画化を熱望していたという塚本監督は、念願の企画だった本作に、「僕は昭和の真ん中ごろに生まれた人間。戦争は絶対にしてはならないという考えが当たり前だと思っていた。だから最初は普遍的なテーマを豊かな原作を使って描けたらと思っていた」と切り出すも、「しかし今はどんどんと戦争に傾斜して突き進んでいるという危機感があるから、今こそ作らなくてはいけない映画だと思うようになった」とコメント。思わず目を背けたくなるような暴力描写についても「皆さんが映画を観て、戦争はつくづく嫌だなと思ってもらえるように作りました」と付け加えた。
劇中、極限状態の中で飢餓に苦しむ田村は、人肉を口にしてでも生きるべきかの選択を迫られる。外国人記者から「これは自分に対する問い掛けでもあるが、そういう状況を考えることはできますか?」と尋ねられた森は「もちろんそんなことは絶対にしたくない」とキッパリと否定しつつも、「ただし戦場に行ったら、そういう状況になるかもしれない。それを考えるだけでも怖いことだし、そんなことは絶対に起こらないようにしてほしい」と返答。
そんな森の意見に深くうなずいた塚本監督は「10年ほど前に戦争体験者の方にお話を聞いたときには、そういった状況では食べざるを得ないような状況になり、理性的なことを考えるゆとりはなくなると聞きました。自分の体から湧き出てきたウジを食べるくらいに意識がもうろうとする。その時点で、動いているものは全て食べ物に見えてくる。だから肉が目の前にあれば自然に口が動くようになる」と戦争体験者からの話を紹介すると「その恐ろしさが戦争。そうならないように戦争は事前に食い止めないといけない」と固い決意を語った。
また、本作は、東京、石川県・金沢、神奈川県・逗子、大分県・別府の映画館で外国人観客のために英語字幕版の上映が行われることも発表され、会場から大きな拍手が湧き起こった。(取材・文:壬生智裕)
映画『野火』は7月25日より渋谷・ユーロスペース、立川シネマシティほか全国公開