黒澤作品を彷彿させる完成度のモノクロ映画『新しき民』とは?
ニューヨークのジャパン・ソサエティーのイベント、ジャパン・カッツで上映されたモノクロ映画『新しき民』について、山崎樹一郎監督と桑原広考プロデューサーが語った。
本作は、江戸時代に津山藩で起こった山中(さんちゅう)一揆を題材にした映画。出産を控えた妻たみ(梶原香乃)と静かに暮らしていた治兵衛(中垣直久)は、藩の年貢の増徴政策に反対して農民が蜂起し殺されていく中、身の危険を感じて、家族を捨て村から逃げ出す。数年後、生き延びて町で暮らしていた治兵衛のもとに、一人の男が現れる。
キャスティングについて「前作『ひかりのおと』は、地元の一般の方を起用して製作しましたが、今作は製作前に技術が必要な作品だと理解していました。主役の中垣さんは鳥取の劇団俳優で、たまたま岡山の真庭(まにわ)でその劇団公演があって、山崎監督が観劇し、そのまま中垣さんにしたいという形で主演が決まりました。彼は、今作が初の映画出演です。その他キャストは、岡山や東京などでオーディションをし、その中には演技経験のない一般の人も、事務所に所属する俳優もいました。たみ役の梶原さんは事務所に所属している女優さんで、何本か映画出演もしています」と桑原が明かした。
黒澤明監督の『七人の侍』をほうふつさせる高度な美術について「美術担当は1~2か月前から入って、東映太秦に研究に行き、(東映太秦の)美術の方と話をしました。撮影で使われる木目のあるものは、(モノクロ用に)焼き目を入れていました」と山崎監督が語り、さらに地元の人々の協力については「(一部を除いて)ほとんどメインスタッフは若手で経験もないため、地元の人で映画に携わっていなくても、大工仕事ができる人、裁縫ができる人、そんな人たちの力を集めて映画に込めれば、もっと映画の幅が広がると思い、そんな助力をしてくれる仲間を探し、それからスタッフが入って地元の人たちと製作しました」と桑原が答えた。
本作を通して個性の大切さを訴えたかったのか、との質問に「現代社会の若者に欠けているのは、自主的に自分の道理に従って、自分の意思で行動する力だと思います。権力に対して、民衆の力も大切ですが、それにもあらがう力、集団化に背を向ける力や個人の考えが大切だと思います」と山崎監督は語った。
映画は、モノクロ映像、高度な美術、演技力など全てにおいて独立系低予算作品とは思えぬ完成度の高い作品。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)