名優ベン・キングズレー、俳優としての「完全なる至福」を語る
映画『ガンジー』などでおなじみの名優ベン・キングズレーが、新作『しあわせへのまわり道』について語った。
【写真】ベン・キングズレーがタクシー運転手役!『しあわせへのまわり道』ギャラリー
本作のストーリーは、ニューヨークの書評家ウェンディ(パトリシア・クラークソン)が、結婚生活が突如破綻し絶望する中、車を運転できない現実に気付き、インド人のタクシードライバーのダルワーン(ベン・キングズレー)にレッスンを受けることになるというもの。人種も宗教も異なる男女が車の運転を通して徐々に心を通わせていく様を描く。映画『死ぬまでにしたい10のこと』のイザベル・コイシェがメガホンを取った。
ウェンディとダルワーンの関係について「二人は全く異なった世界に居たが、運命に投げ出された状態で出会うことになる。しかも彼らは、最初はお互い小さな空間にこもっている。僕が演じたダルワーンは、インドでは教授をしていた過去を持つが、現在はニューヨークでタクシーを運転しながらシーク教徒の世界にこもっている。一方、ウェンディは夫と別れたことで、トラブルを抱えながら家にこもった状態だ」と語った。全く違う境遇で、それぞれ殻に閉じこもった二人が出会う設定が面白い。
映画『エレジー』でもタッグを組んだパトリシアとの再共演は「『エレジー』では、僕らはお互いニューヨーカーを演じた。でも今作では、二つの異なる世界から来た設定で、セットでは彼女とはあまり親しく接することなく、会話も少なかった。お互いがそれぞれの役柄に徹していて、『エレジー』とは異なった体験だった。今作は、自分自身でキャラクターのアプローチを見つけ、共演者を受け入れながら、映画の題材に適したアプローチをしなければならず、セットでは親しい間柄のままではいられなかった」とある程度、パトリシアとは距離を置いて演じていたことを明かした。
演技へのアプローチについて「いつも誰かを想像しながら表現する仕事に関われることは素晴らしいことだ。その過程自体が楽しい演習のようなものだ。(演技という)キャンバスの上では、僕は肖像画のアーティストだ。水彩画や油絵としては描かず、あくまで自分の体、声、イマジネーションによってその肖像画を作り上げていく。そして、そのときが(俳優として)完全なる至福の状態だ」と答えた。
映画は、文化や境遇の違う二人が、車の中でお互いの経験と感情を交えながら、新たな未来に進む設定が興味深く描かれている。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)
映画『しあわせへのまわり道』は8月28日より全国公開