ナチスの悪魔的行為を描くカンヌ国際映画祭グランプリ作とは?
今年のカンヌ国際映画祭グランプリ作品『サン・オブ・ソウル(英題) / Son of Saul』について、ラースロー・ネメス監督と主演ゲザ・レーリヒがニューヨーク映画祭(53rd N.Y.F.F.)で語った。
本作は、1944年のアウシュビッツ強制収容所で、他の収容者を管理する職務に就いていたユダヤ人収容者の物語。ユダヤ人収容者グループ「ゾンダーコマンド」の一員、ソウル(レーリヒ)は、ナチス党員によるユダヤ人殺りくを補助する役目を与えられ火葬場で働いていたが、ある日、ガス室の山積みの死体の中でわずかに息をしていた子供が目の前で死んでいくのを目の当たりにし、子供に真の墓を与えようと、脱出をもくろむ「ゾンダーコマンド」の仲間と計画を練っていく。
企画についてネメス監督は「僕が5歳くらいのときに、母が、祖父母がナチスに連れ去られたことを隠さず話してくれた。その10年後に映画製作を始め、いつかホロコーストの時代を題材にした映画を作りたいと考えていたが、当時はどう描いて良いかわからなかった。それがある日、あまり知られていないゾンダーコマンドの一員の文書を読み、ナチスによる大量殺りくに関わったユダヤ人の一人を描くことが、ものすごく強烈な印象を残すと思った」と製作理由を明かした。
ナチスのユダヤ人殺りくを補助した人物を描くうえで「アウシュビッツ強制収容所の中で、一人の人間がどう生きるかを考えることは、非常に重要だった。なぜなら、このアウシュビッツ強制収容所では、一人の人間が見たり、感じたり、さらに情報を得ることは非常に限られ、次に何が起きるかわからないからだ。だから、映画内ではソウル自身が感じたことを、観客も直感的に体験できるように描いた」とネメス監督が語った。
子供に真の墓を与えることが、今作ではシンボルになっている。「ゾンダーコマンドがナチス党員を補助した現実は非常に信じ難いことで、それ自体がナチスが行った最も悪魔的な行為だ。なぜなら、ナチスはゾンダーコマンドの連中に強制的に殺りくの補助をさせたことで、彼らからイノセントを奪い、道徳のどん底へと突き落としたからだ。そのため、このような死体に囲まれ、死が重要視されない中で、ガス室で生き残っていた子供にソウルは自分の存在価値を見いだす」とレーリヒが説明した。
ソウルの視点から描かれるアウシュビッツ強制収容所に、観客も閉じ込められた感覚に陥るほどの強烈な印象を受ける作品だ。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)