西島秀俊、疑いを持って生きる…正義の危うさに警鐘
『MOZU』男たちの正義
人気刑事ドラマ「MOZU」で西島秀俊が演じる主人公・倉木尚武は、「正義」を司る警視庁公安部のエースである。しかし、そのキャラクターは正義のヒーローとは片付けられない複雑さを内包している。シリーズを締めくくる『劇場版 MOZU』で激しいアクションに挑戦した西島が、「倉木尚武」の視点から「正義」について語る。
西島秀俊(倉木尚武)にとっての「正義」とは?
「ヒーローというものが正義や誰かのために戦う人間だとすれば、倉木はヒーローではないですね」。西島は言い切った。「倉木は家族の死の真相を知るという名目だけをその手に握って生きている男。ドラマシリーズでその謎に関しては一応の決着がついたことで、倉木には生きる意味がなくなってしまった」。劇場版の幕開け、気力を失った倉木はバーで飲みつぶれている。「彼は生きる屍であり、虚無的な人間です」。
劇中、そんな倉木に執拗にまとわりつき、「こっちへ来いよ」と挑発し続けるのが、元公安の犯罪者である東和夫(長谷川博己)だ。「それに取り込まれないように抗うことで、倉木は人間らしくいる方向になんとかとどまっている」と西島は倉木の危ういバランスを分析。劇場版で、ある犯罪計画の真相を追う倉木は、最後の敵ともいえる存在ダルマを追う。倉木にとっては、それも正義感ではなく、妻と娘の死の新たなる真相を知れるかもしれないという相変わらずの動機に突き動かされているに過ぎない。「倉木は再び戦う場所が見つかったから戦っているだけ。戦う場所がなくなったら、それは死ぬときですね」。
一方、西島自身は正義を、「取扱注意」の概念と捉えているようだ。「本音を言うと、『これは正しい』という確信を持つことや、『自分の行いは絶対的な正義である』と思い込むことが、実は一番間違いにつながりやすいと思っています。自分も含め何に対しても、常にどこかで疑いを持って生きていきたいなと思います」。
倉木の自暴自棄
正義について考えることすら放棄した倉木は、自分の命にも執着がない。彼の性質は、真夏のフィリピンでロケを行ったハードなアクションシーンにおいて一層の凄みを見せる。西島も「日本ではできないカーアクションができたと思います」と自信の表情。「ギリギリを攻めてくるから、役者が乗っている車にも(相手の車が)ガンガンぶつかってくるんですよ」と現場の狂騒をうれしそうに振り返った。
本作は、逢坂剛のハードボイルド小説「百舌」シリーズを基にした連続テレビドラマの劇場版にして完結編。妻の死の真相を追う公安警察のエース・倉木の前で、二つの大規模テロ事件が発生。事件の裏で新たな犯罪計画を進める日本事件史最大の闇“ダルマ”との死闘をアクション満載で描く。(取材・文:須永貴子)
『劇場版 MOZU』は11月7日より全国公開