江口洋介、竹野内豊との和解シーンのため朝まで飲み明かす
映画『人生の約束』で人間らしさが希薄なIT企業の社長役と土くさい漁師役で初共演を果たした竹野内豊と江口洋介。対立する役どころを演じた二人が、共に全力でぶつかった撮影を振り返り、和解シーンの裏話や役づくりについて語った。
「池中玄太」シリーズなどで知られるテレビドラマ界の巨匠・石橋冠監督がメガホンを取った本作は、亡き親友・航平に導かれるように富山県の新湊を訪れたIT企業の社長・祐馬が、地元の漁師・鉄也との対立や友情、江戸時代から続いている「新湊曳山まつり」への参加を通して忘れていた大切なものを取り戻していく感動の人間ドラマ。雪の立山連峰や迫力の曳山まつりにも圧倒されるが、観る者の心が大きく揺さぶられるのは、役者が全員演技を超えてそれぞれの登場人物になりきっているからだろう。
中でも真逆のキャラクターを演じた竹野内と江口のガチンコの演技バトルは見逃すことができない。角刈りにして撮影前から現地の人たちと生活を共にした江口は本物の漁師にしか見えず、初対面の祐馬にキレるシーンはかなり怖い。だが、「あれは義弟・航平との友情を反故にした祐馬に対する怒りに、曳山(山車)を隣町に譲らなければいけない苛立ちも加わって、八つ当たりに近いんだよね」と江口は笑う。「それだけに和解するシーンは自分の生活を乱したくなって。朝まで酒を飲んで、そのまま現場に行ったんです。少しやさぐれた感じを出したかったんですよ」。
役の感情をリアルなものにするためにそんなリスクを自らに課しているのは、竹野内も同じ。「鉄也や航平の娘・瞳(高橋ひかる)との触れ合いの中で、祐馬のサイボーグのような心が少しずつとかされていくんです。その繊細な変化を表現するのは難しかったですね」。竹野内はそう振り返ったが、クライマックスではその表現の最終形であり、本作のテーマを代弁する表情を見せる。「あそこは曳山まつりのシーンの後に、そのままの流れで撮ったんですけど、冠さんからは『思いっきりやってくれ』と言われただけです」と竹野内。
江口が補足する。「監督は竹野内くんの中から出てくるものを待っていたんだろうね。すごい長回しだったから、曳山をひく時の掛け声『イヤサー! イヤサー!』って何回言わなきゃいけないだろうと思ったし、だんだん限界を超えていく感じがありましたよ(笑)」。その嘘のない本物のエモーションが余裕のない現代人の心を癒やしてくれるのだ。(取材・文:イソガイマサト)
映画『人生の約束』は1月9日より全国公開