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韓国映画界の異端児キム・ギドク、福島原発事故を扱った新作『STOP』の日本公開を熱望

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次々と衝撃作を世に放つキム・ギドク監督
次々と衝撃作を世に放つキム・ギドク監督

 韓国映画界の異端児キム・ギドク監督が、間もなく日本公開される『殺されたミンジュ』に連なる作品としながらも、いまだ日本公開が決まっていない次回作『ストップ(原題) / STOP』(以下『STOP』)について語った。

 『殺されたミンジュ』は、女子高生オ・ミンジュの殺害事件に関わった7人の容疑者たちがひとりずつ謎の武装集団に拉致監禁・拷問されていくさまを通じて韓国社会の暗部を描き出した衝撃作。「私たちは、誰もが自分の中に“失われたミンジュ(民主主義)”を抱えているのではないかと考えている。この映画を、ひとりの女子高生の死の物語と捉えるのではなく、民主主義の死や喪失を象徴的に描いた物語だと捉えてほしい」と切り出したギドク監督は、「現在、韓国に住んでいる多くの人たちが、自分も含めて、消化不良の状態にある。数え切れないほどの事件が立て続けに起き、私たちに衝撃を与えている中で、『自分は何者なのか? 自分の役割は何なのか?』という問いかけが自分自身の中に浮かび上がってきた。そうした問いかけに自分なりに答えたのがこの映画だ」と本作を制作した理由について語った。

 本作で7人の容疑者たちが受ける拷問描写は非常に暴力的であり、まるで観客自身が鈍器で殴られたかのような痛みをもたらしている。「やはり観客に痛みが伝わらなければ、ドラマに感情移入できないし、その先にあるメッセージも伝わらない」と語ったギドク監督は、「本作では金づちで手の甲を叩くシーンがあります。もちろん本物ではなく作り物のハンマーを使っていますが、それでも実際に何度か叩くと手の甲が青くなってしまう。やはり俳優が実際に痛みを感じなければ、その感情をリアルに表現できないのだと思っています。もし痛みが伝わったと思ってもらえたなら、それは俳優が実際に痛みを感じていたからだと思う」と満足げな顔を見せた。

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 これまでは人間の恥部をさらけ出すような個人的な物語を数多く描いてきたギドク監督だが、本作で描かれるのはより社会的なテーマだ。ギドク監督は、そういった資質が日本の福島原発事故により東京に移住した若い夫妻を描き出した最新作『STOP』と共通しているものだと語る。「この社会、国家、自然を振り返ってみて、人間は安全に暮らしていけるのか、こうした問題はより悪化してしまうのではないかという不安や心配が自分にはある。この映画には、そういった状況を少しでも良くできないかという望みが込められている。そういう意味でこの2本はつながっていると思う」というギドク監督は、「今までこれとは違った映画を作り続けてきたからこそ、今回はこういった作品が撮れるようになった」と誇らしげな顔を見せた。

 ギドク監督が本作に連なると語る『STOP』であるが、残念なことに日本公開は未定のままだという。「カンヌ国際映画祭では何人かの日本のバイヤーがこの映画を観てくれたと聞いているんですが……」と沈んだ表情を見せたギドク監督は、「日本で公開されない理由は分かりません。韓国の監督が福島を題材に扱ったことに対する懸念もあったのかもしれない。でもわたしはこれを単なる日本だけに限った問題ではなく、全世界的な、地球上の大きな問題としてアプローチしたかったということを理解していただきたい」と語る。

 さらに「こういう状況なので、出演してくれた日本人俳優の皆さんに申し訳ないと思っているんです。彼らは本当に献身的に映画に尽くしてくれた。だからこの作品を通じて彼らの才能を知ってほしいと願っている。もし公開が難しいなら、せめてDVDでもいいから発売してもらいたい」と訴えかけた。(取材・文:壬生智裕)

映画『殺されたミンジュ』は1月16日よりヒューマントラストシネマ有楽町にて公開

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