アウシュビッツの惨状を伝える貴重写真!死体処理部隊を扱った映画イベントで解説
ジャーナリストの堀潤と早稲田大学文学学術院准教授の橋本一径氏が13日、代官山の蔦屋書店で行われた映画『サウルの息子』公開記念イベントに来場、本作のインスピレーションの源となった4枚の写真について解説した。
第68回カンヌ国際映画祭グランプリを獲得した本作は、第二次世界大戦中の強制収容所アウシュビッツを舞台に、同胞たちの死体処理の仕事を強いられ、自らも命を落とす運命にあった特殊部隊“ゾンダーコマンド”に所属するユダヤ人の男が、ガス室で発見した息子らしき少年を正しく弔おうとするさまを描き出す。
ハンガリー出身の新鋭ネメシュ・ラースロー監督は、ゾンダーコマンドのメンバーが絶望的な状況から収容所を撮影したといわれる4枚の写真からインスピレーションを受けて、本作を制作したという。そしてその4枚の写真について述べた、フランスの哲学者ジョルジュ・ディディ=ユベルマンの著書「イメージ、それでもなお アウシュヴィッツからもぎ取られた四枚の写真」を翻訳した橋本氏は、「そもそもアウシュビッツで写真を撮るのは不可能なことだった。ナチス側がプロパガンダで撮った写真はあったが、操業中のアウシュビッツでユダヤ人が撮った写真は、知られている限りではこれしかない」とその4枚の写真の意義について解説。
「ここ4、5年くらいの研究で、撮ったのはこの人に違いないという人は特定されてきている。歴史の研究は今でも続いているんです」と橋本氏が語る通り、この写真を撮ったのは、ギリシャのユダヤ人アレックスという人物だと伝えられている。「カメラを持ち込むのも難しいんですが、レジスタンスや協力者が少なからずいた。歯磨き粉のチューブにフィルムやカメラを隠して何とか持ち込んで。ガス室の扉から隠れて、ファインダーをのぞかずに撮ったのがこの写真です」と解説。
「世間では収容所の存在すら知られてなかったこの時代、恐ろしいことが繰り広げられていることを世界に知らせたいという気持ちが大きかったはず。きっと写真があれば、みんな信じてくれるはずだと思ったのだろう」と切り出した橋本氏だったが、「ただ、この写真も外に伝わったけれども、アウシュビッツを食い止めることができなかったし、レジスタンスが期待した効果は生まれなかった。そこには世間が知ろうとしなかったという問題があったんじゃないかなと思います」と指摘。さらに「この映画は遠い場所の話ではありません。時代的にも距離的にも、現代の日本に重ね合わせて考えて見ていただけたらと思います」と観客に呼びかけた。(取材・文:壬生智裕)
映画『サウルの息子』は1月23日より新宿シネマカリテほかにて全国公開