杉野希妃、肉じゅばん姿で現場入りしていた
映画『ほとりの朔子』の杉野希妃が、出演・製作・監督を務めた話題作『マンガ肉と僕』(日本公開中)について、2月11日(日本時間)、E-mailでの取材に応じた。
舞台は京都。孤独な大学生ワタベ(三浦貴大)は、太っているため学生達に嘲笑されていたサトミ(杉野)に優しく接していたところ、その優しさに付け込んだサトミが、ワタベの家に転がり込みワタベを支配しようとする。そんな中、ワタベはアルバイト先で知り合った菜子(徳永えり)に好意を持ち始める。
メイクアップの過程と太った役で気をつけた点は「朝、監督として現場に入るため3時頃に起きて、特殊メイクに3時間かけ、サトミの姿のまま現場に入りました。肉じゅばんや衣装を着た瞬間に性格も変化した気がして、自然にスイッチが入りました。サトミは肉で武装し男性にあらがいますが、男性に対する恐怖心もあります。ワタベを奴隷のようにこき使う傍若無人ぶりの裏には、不安や卑屈さもあり、そのバランスに気を付け、過度にならぬようギリギリで演じました」と語る通り、杉野の変貌ぶりが魅力だ。
監督手法と、和楽器の映画内での使われ方について「原作から、橋で女がたたずむ絵が浮かび、イメージを膨らませるうちに、川と橋が印象的で、風景に歴史や人間の感情の積み重なりが感じられる京都で撮りたい、無機質で都会的な場所は今作には合わないと直感しました。また日本映画の女性像の系譜上に、今作に登場する女性たちも存在することを強く意識して製作しました。特にラストシーンでは、現代における女性像や女性の立ち位置を感じてもらえると思います。次に音楽のアイデアはサトミが『笙』、菜子が『琴』、ワタベは『電子音』という風にキャラクターごとに楽器を決めて構成しました」と答えた。
映画内の「女は男と対等になるために男性化するが、そのために女を捨てるのはもったいない」という言葉は男性中心の映画界での、杉野の生き方にどう反映されているのか。「このせりふは私の願望そのものです。女性として軽視されたくないと思うあまりに、変に気が張り、対抗意識を持つことがあり、それはもったいないと思うことが多々あります。もっとしなやかに生きられたら私自身も楽になりますし、各々がそれを意識することで、より豊かな世界になるのではないかと感じます」と答えた。凛とした女性の強さと美しさを兼ね備えた彼女は、日本映画界で稀有(けう)な存在に思える。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)