映画評論家・町山智浩、『サウルの息子』アカデミー賞獲得に太鼓判!
第88回アカデミー賞授賞式を翌日に控えた28日、映画『サウルの息子』トークイベントが都内で行われ、映画評論家・町山智浩が登場。本作は外国語映画賞にノミネートされており「絶対獲りますね!」と太鼓判。さらに、作品賞にノミネートされている『レヴェナント:蘇えりし者』と全く逆の映画で面白いですよ」とアピールした。
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第68回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した本作は、ハンガリー出身のネメシュ・ラースロー監督の長編デビュー作。ユダヤ人強制収容所を舞台に、同胞をガス室に送り込む“ソンダーコマンド”の任に就くサウルが、息子の遺体を正しく埋葬することで人間としての尊厳を貫き通そうとする姿を描いた感動作。
一番の見どころはカメラワークが特殊な点で、「主人公の顔の後ろにカメラを置いているから周りの背景がわからなくて、ピントも浅くてボケていて、ほとんどのシーンが2~3分の長回しで何が映っているかわからない」と話す町山。その理由を説明する上で、内容が「そっくり」という、同胞を監視するユダヤ人女性と、捕虜となったソ連軍の男性とのラブロマンスを描いた『ゼロ地帯』(1961)を挙げる。これは、ジャック・リヴェット監督が「カメラワークが許せない」と糾弾した作品で、ユダヤ人女性が自ら命を絶った劇中シーンを綺麗に撮影したことを「死者に対する冒とく」と訴えたという。本作では、サウルが見たままを映し出しているため、死体を美しく見せる演出はされておらず、町山は「ジャックが言った『それ(死体)を見せて商売するな』ということがあったんじゃないかな」と自身の見解を述べた。
また、本作が「未来に残すことがテーマになっている」とも語り、劇中では世紀の大虐殺を記録したペンや紙は出てこないが、実際には瓶に入れて土に埋めたものが後世に残されたそうで、「サウルが息子の遺体を埋める行為によって象徴されている。我々は死んでしまうけど、なんとかして未来に残したいという気持ちがあった」と語る町山。さらに、“ソンダーコマンド”の掟に「子供だけは引きずらないで両手で抱きかかえて焼却炉に運ぶ」ということがあったことも紹介。それを意味するのは、「子供は未来だから大事にしなければいけない」。そして、「紙を埋めるようにそれ(息子の死体)を埋めることで未来に繋げようと思った」とネメシュ監督が本作に込めた思いを代弁した。
ちなみに、「『レヴェナント』と全く逆」というのは撮影方法のこと。町山は「『レヴェナント』は背景のはるか遠くまでピントが合っていて、ワイドレンズだから横幅が長い」と説明。上映後の観客に「このあと観ると、(違いがあって)面白いですよ(笑)」と勧めていた。(取材/錦怜那)
映画『サウルの息子』は全国公開中