哺乳瓶でコーラを飲む赤ん坊…砂糖中毒に侵される世界の真実
新作ドキュメンタリー映画『あまくない砂糖の話』で、「人間は1日に平均でスプーン40杯もの砂糖を摂取している」という事実に疑問を抱き、自ら実験台となり、実際は大量の砂糖が潜んでいる“ヘルシー”な食品から砂糖を60日間摂取し続けたオーストラリア人俳優デイモン・ガモーが来日し、食品業界から攻撃を受けつつも、本作を完成できたことをしみじみと振り返った。
「アメリカのジュースには驚愕した。巨大なカップ一杯のスムージーにスプーン34杯分もの砂糖が含まれていたんだ。そのくせ、それが健康食品として売り出されていた」とまずは実験中に口にしたもので一番衝撃だったものを語るデイモン。今や砂糖は形を変えて様々な食品に入り込み、加工食品の80%には砂糖が含まれているという。
本作では、医療チームの監視のもと自らの身体の変化を追う一方で、かつては1年でアメ玉2、3個分の砂糖しか摂取していなかった、オーストラリアの先住民族・アボリジニが砂糖を過剰に摂るようになったことで直面している問題などにも切り込んでいく。「アボリジニの有名な俳優と共演したことがあったんだ。撮影が終わって、僕は2週間ほど彼の故郷に滞在した。その時、ある母親がコーラを哺乳瓶に入れて赤ん坊に飲ませているのを目にした。その光景はとてつもなく衝撃的だったよ。これから10年後もこういうことが起き続けていくのかと思うととても悲しい気持ちになった」と現地取材を決めたきっかけを明かす。
また、食品業界が取り組んでいる商品開発の裏側も紐解いていく。題材が題材であるだけに、「食品業界の人々は協力的ではなかったね。個人的な攻撃を受けたこともある」と告白。「いつか攻撃されるだろうってわかってた。でもこのテーマは、僕自身を危険にさらしてでも伝えることが重要だと思った。非難を受ける覚悟でこの映画に臨んだし、この映画を通じて僕の伝えたいメッセージが人々に届けばいいなって。それがたとえ一人だったとしても、素晴らしい事だと思えた」と決意を振り返るデイモンの表情は真剣そのもの。
その甲斐あって、本国オーストラリアではドキュメンタリー映画として史上最高の動員記録を樹立する社会現象を巻き起こした。「ポジティブなことがネガティブなことに勝っていたから、小さな攻撃を受けても何とかやってこれた。毎日、人々から称賛の言葉をもらったし、人々は驚くほど協力的だった。この映画を観た人が、僕のことを道で呼び止め、『人生を変えるよ。子供のためにも』って言ってくれたり。この映画はとても特別なものになった」と反響の大きさを喜んでいた。
ヒュー・ジャックマンが砂糖の歴史を紹介するのに登場したり、カラフルでポップな数々の視覚効果や、最後には有名アーティストも顔負けの“砂糖の歌”のミュージックビデオが流れるなど、観ていて飽きない本作。「食品業界こそがそういったテクニックを使っている。彼らの広告は大げさでカラフル。だから僕たちも同じトリックを使おうってなったんだ。ヘルシーなメッセージに入れ替えてね」とほほ笑むデイモン。実験中は彼の私生活もつつぬけになるだけに、鑑賞後は彼のことを昔からの知り合いのように思えることだろう。(編集部・石神恵美子)
映画『あまくない砂糖の話』は3月19日より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開