美化される暴力と腐敗…麻薬戦争の最前線で捉えたかったもの
映画『ゼロ・ダーク・サーティ』などのキャスリン・ビグローが製作総指揮に名を連ね、メキシコ麻薬戦争の闇に迫る衝撃のドキュメンタリー『カルテル・ランド』でメガホンを取ったマシュー・ハイネマンが、危険を冒してまで麻薬戦争の最前線に乗り込み、本作を作り上げた理由を語った。
今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にもノミネートされた本作は、麻薬カルテルに抵抗するために立ち上がったメキシコの小さな町の内科医ホセ・ミレレスと、麻薬の国境越えを阻止するために“アリゾナ国境偵察隊”を結成した退役軍人ティム・フォーリーを軸に、メキシコ麻薬戦争の現状をリアルに映し出す。
「私は戦争レポーターではなく、これまでに危険な状況での撮影を経験したこともない。でも、『カルテル・ランド』の制作過程において、自警団とカルテルの銃撃戦や、メスラボ(製造工場)、拷問部屋など想像もしなかった場所で撮影をすることになりました」と当時を振り返るマシュー。防弾チョッキなど最低限のセキュリティー事項を学ぶも、全ては現場での判断にゆだねられたという。
自らの危険を冒してまで本作を完成させようと思ったのはなぜなのか。「新聞を開けば死体の写真が載っています。たくさんの暴力がTV番組や映画で美化されています。私の目標は、この問題(麻薬戦争)をこういった見出しやポップカルチャーの枠組みから取り出し、リアルな人間の顔を付け足して、実際に起こっていること、どれだけの人々が現実に麻薬の暴力の影響を受け、それに対抗しようと立ち上がっているかを描き、市民が法を自分の手の中に入れた時、何が起こるかを描くことです」。
また、マシューは「(ドキュメンタリー映画界の巨匠)アルバート・メイズルスがかつてこう言いました」と切り出し、「当初計画した通りに物語が終わったとしたら、そこに至る道のりで人に耳を貸さなかったということだ」と続ける。「これは人生にとっても、映画作りにとってもいいアドバイスだと思いますし、『カルテル・ランド』の製作中にほとんど毎日考えていたことです」と大事に心にとどめていた言葉を共有した。(編集部・石神恵美子)
映画『カルテル・ランド』は5月7日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開