園子温「もう死んでもいいかな」妻・神楽坂恵と作り上げたSF『ひそひそ星』
『冷たい熱帯魚』『ヒミズ』などの園子温監督が、自ら立ち上げたプロダクションの記念すべき第1作として、1990年に書いていた脚本と絵コンテをベースに作り上げたSF映画『ひそひそ星』に対する思いを、妻であり、同作の主演・プロデューサーを務めた神楽坂恵と一緒に語った。
長い宇宙の旅の間、年を取らないアンドロイド鈴木洋子(神楽坂)が宇宙船に乗って星から星へと、人間たちの配達物を届けていくという物語を紡ぐ本作。
ほぼ99%、絵コンテまでできていたという、20代のときに書き留めていたオリジナルの物語で、主演のアンドロイド役は妻である神楽坂一択だったという。「そもそもこの映画でお金を一銭も儲けようなんて思っていないんで。そういうところで別にわざわざよく知らない芸能人使って、一年に一回会うか会わないかくらいの人たちと一緒に仕事をする必要ないって思ったし。家族映画にしたかったの。中学の時に初めて8ミリ映画を撮ったんですけど、それはクレオパトラっていう名前の飼い猫ちゃんが、子供を産んで子猫と戯れているところを撮影したわけですよ。その時だって見も知らない猫を撮る気はなくて、自分の猫だからこそ愛着を持って撮ったわけですよ。それとなんら変わらないんです」。
監督は以前、25年前の自身である“彼”に捧げた映画でもあるということを口にしていたが、脚本を執筆していた当時の“彼”は現在の妻・神楽坂の存在すらも知らないことを思うと、得も言われぬロマンティシズムが漂う。監督:「何年に生まれた?」、神楽坂:「1981年」、監督:「じゃあ生まれてはいたね」。神楽坂は「すごい。時を超えて光栄ですよ。映画を作り始めるってなった時は、(主演が)わたしだと思ってなかった。裏の仕事をしようと思っていたので」と笑顔。
「いづみという人と出会って、これは時間の映画でもある。ある瞬間、いづみとこういう映画を撮れたらいいなと思っていたからすごく幸せでしたし。いづみ……いづみって本名なんだけど(一同笑)。『希望の国』(震災後の原発問題を扱うヒューマンドラマ)っていう映画もあったけど、彼女の出る映画って過剰な映画が多かったから。結構ね、裸になったりとかも多かったんで。そういう意味で今回は、神楽坂恵という奥さんを使ったっていう以外の仕掛けは全くないわけですから。そういうのも含めて、何にも邪心はないから。なおかつね、別に奥さんを過剰に綺麗に撮ってやるなんて燃えてもいなかった。ただ単純に、宇宙船の中で生きているとある一人暮らしの人ということなんで。それが大事だったんでね。でも本当に僕は、妻とこのSF映画『ひそひそ星』を撮れたことがすごくうれしい」。
それを傍らで聞いていた神楽坂も「うれしいです。うれしいこといっぱい。『ひそひそ星』を撮ったらこうやって、うれしい言葉をインタビューとかで言ってくれるので(笑)」と顔をほころばせる。監督は改めて「『希望の国』のときは悲惨だったよね。そういうこと言い合う感じもなかったし。逆に、被災地で彼女は泣いちゃうし。だから今回のはすごくそういう意味でもよかった。もう死んでもいいかな」としみじみ語り、本作の持つパーソナルな意義を噛みしめているようだった。(編集部・石神恵美子)
映画『ひそひそ星』は新宿シネマカリテほかにて公開中