園子温、決意表明「小説・漫画原作の映画はもう作らない」
近年、商業映画での成功が目覚ましい園子温監督が、自身で立ち上げたプロダクションでの第1作『ひそひそ星』について、妻で女優の神楽坂恵と共に振り返り、邦画の現状を危惧しながら、小説や漫画原作の映画を作らないことを宣言した。
監督の作品ではおなじみの性や暴力の描写を封印し、監督が20代の時に書き留めていたオリジナルの物語をモノクロで描いた『ひそひそ星』。昭和風のレトロな内装の宇宙船で、アンドロイドの女性・鈴木洋子(神楽坂)が、滅びゆく絶滅種と認定されている人間たちに大切な荷物を届けるために、静寂に包まれた宇宙を旅する。
本作では主演を務める傍ら、シオンプロダクションのプロデューサーとしても参加している神楽坂。「今回は、お金のこととかも見えるから。映画って知らないところで、ちょっとした何かをAじゃなくてBでやるっていったら、これだけ値段が上がるんだとか」と製作サイドの事情を知ったことは大きな経験になったようだ。宇宙船内の床を上げたもののあまり使われなかったことを例に出しつつ、「1カットでも使えてよかったねって。監督が撮りたかった絵が撮れればそれでオッケー。すごく贅沢にさせてもらった」と裏話を明かす。
一方の監督は、「本当はその程度は贅沢じゃないんだけど(笑)。日本映画としては贅沢。ハリウッド映画の気持ちになればなんてことはない」と比較してみせる。手間をかけたのは、編集についても同じだそうで、自主映画ならではの納得がいくまで、編集に約1年も費やしたそう。「とにかくこのタイプの映画は一本で終わっちゃダメなんだ、撮り続けなきゃいけないなって思っているんですよ。こういう映画は続けてこそという感じ」と意欲的。監督にとっての新たな幕開けを予感させる。
そんな本作が国内外でどのような評価を得るのか。すでに第40回トロント国際映画祭最優秀アジア映画賞を受賞しており、監督自身も「海外では、まあうまくいくでしょう」といたずらっぽい笑顔を見せる。しかし邦画の現状には苦言を呈する。「試写会で監督名を伏せたら、誰の映画か百パーわかんない。日本はそういう映画ばっかり撮っちゃっているから。監督たちに言いたいのは、作家性を確立とまでは言わなくてもいいから、せめて匿名な絵作りはやめてって」。「娯楽映画ですら、例えば『007』のカメラワークとか結構頑張っているのに。日本のエンタメ作品を観ると、本当に引き絵と寄り絵だけというか、あとは引き絵でレール引いてちょっと移動するとかしかやってないから。本当にそれで面白いのかなと思うな」と吐露。
そんな邦画界の現状を打破したい思いもあるのだろう。「僕はこれから、小説や漫画原作のものは撮りません。とにかくオリジナル作品で撮っていくと決めたので。そういう意味では予算もそんなにもらえないだろうけど、日本では小ぶりでもいいから、ちゃんと堅実にいい映画を撮りたいなというのはありますね」ときっぱり。「エクストリームなエンタメ映画に関しては、海外でやることに決めました。それはやらなきゃいけないことだし、これからの日本映画の希望というか、突破口にするしかない。あるいはプロデューサーとして、合作とかそういうのをやっていく人が一人もいない。だからもう俺がやるしかないなと思って。そういうことで予算をあげていかないとスタッフもかわいそうだと思いますしね」。映画を愛しているからこその決断に、思わず胸を強く打たれる。それは『ひそひそ星』を観ていてもひしひしと伝わってくるものだった。(編集部・石神恵美子)
映画『ひそひそ星』は新宿シネマカリテほかにて公開中