主演作がカンヌ連続受賞の浅野忠信が語る、英語学習の重要性
第69回カンヌ国際映画祭
第69回カンヌ国際映画祭ある視点部門に主演映画『淵に立つ』(深田晃司監督)が出品されていた浅野忠信がフランスで取材に応じ、世界を目指す俳優たちに自身の経験からアドバイスを送った。同作は見事審査員賞に輝き、浅野にとっては『岸辺の旅』(ある視点部門監督賞:黒沢清監督)に続いて2年連続で主演作がカンヌで受賞する快挙。今後も、巨匠マーティン・スコセッシ監督が遠藤周作の小説「沈黙」を映画化した『サイレンス(原題) / Silence』が11月に米公開予定のほか、オスカー俳優ジャレッド・レトーと共演する『ジ・アウトサイダー(原題) / The Outsider』の撮影も控えているなど、海外での目覚ましい活躍が続く。
「人のことは言えないですけど、英語を勉強した方がいいですね(笑)。これはこの仕事に限らず、日本の子供たちがずっと言われていることだと思うのですが。例えば中国語でもいいのですが、もう一つの言語を身に付けて損はないと本当に思います」と真っ先に外国語習得の重要性を挙げた浅野。中でもカンヌ映画祭しかり、国際映画祭で共通言語として話されているのは英語。そこで自分で話ができると、海外の人たちと仕事をする機会も広がってくるといい、「結構ほかの俳優さんにも聞かれますけど、そこを強くプッシュしています。英語を勉強してください!」と力を込める。
浅野自身が英語を習得する必要性を強く感じるようになったのは、『マイティ・ソー』(2011)への出演がきっかけだった。ヨーロッパの映画祭やアジアでの映画撮影ではみな母語が英語ではないとあって適当な英語でも通用したが、アメリカは英語の国。「それまでも適当な教材ばっかり買って……ということは繰り返していたのですが、『マイティ・ソー』でアメリカに行ったときに、今までの適当な英語なんて全然通じないなと、本気の英語を話さないとこの先はないんだなって思ったんです。そこから少しずつ始めて、ある程度自分でこのやり方でやろう、っていうやり方で続けているのは5年前からです」と本格的に学習を始めた。
「今、日本人にとてつもなくチャンスが転がり込んできていると思うんです。簡単に言えば『ラスト サムライ』(2003)以降はアメリカの映画でも日本人を必要とする映画はとっても増えていますよね。それにみんな慣れてしまっていますが、昔だったらあり得ないことですよ」と準備さえしていれば、それを生かせる環境はすでにあるのだそう。「僕がスコセッシ監督の『サイレンス(原題)』に出られたのもそこしかなかったですね。英語を勉強していなかったら絶対できなかったですから。やっている人にはチャンスは来るんだなって自覚しました」。『ジ・アウトサイダー(原題)』も、『バトルシップ』(2012)や『47RONIN』(2013)の撮影でアメリカに行ったときにプロデューサーと話す機会があり、そこで「実はこういうことを考えているから一緒にやろうぜ」と誘われたという。
そして世界を目指すにあたりもう一つ大事なことは、自分の好きなことが何なのかを知ること。「俳優にしても『なぜ俳優の仕事が好きなの?』と聞かれたときに言葉に詰まるようじゃ、それはそんなに好きじゃないね、と。イチロー選手は誰よりも野球が好きなわけですよね。だからあそこにいるわけで、好きな人ってたどり着くべき場所にたどり着くんだと思うんです。もし俳優の仕事が好きなんだったら、もっと好きにならないといけないし、その先に『じゃあこの言語を習得しよう』だったり『カンフーをちゃんと身に付けよう』だったりいろんなこと見えてくるのだと思います。好きなことがわかっていないと、とことんやることもできないですもんね」。
「スコセッシ監督の『サイレンス(原題)』だって、長いこと監督が温めていたわけで。よくカンヌに来ていた頃、『アカルイミライ』(2002)のちょっと前だと思いますが、アメリカのプロデューサーに会う機会があって、そのときにその話を聞いたんです。『俺、マーティン・スコセッシと日本が舞台の映画を撮ろうとしているんだ』って。そこからですから、(完成まで)めっちゃ長いなと思って! その頃の僕はまだ何にもわかっていなかったですから。やっぱり、好きなことってやめる・やめないじゃないですもんね。別に本人が粘っているつもりじゃなくても、ただ好きだから気が付いたら15年たっていた、というようなことだと思うんです。だから、好きなことを知っている人には(何物も)かなわないんです」。(取材・文:編集部・市川遥)
映画『淵に立つ』は今秋、有楽町スバル座ほかにて全国公開