無差別殺人犯役に記憶が飛ぶほどの死闘演技
映画『葛城事件』に出演した注目の若手・若葉竜也が、無差別殺人事件を起こし、死刑囚となった青年という難役をつかんだ意気込みと、「全編が死闘」だったという撮影の舞台裏を語った。
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劇団 THE SHAMPOO HAT を旗揚げし、人間の機微を丁寧に紡ぎ、市井の人々を描く世界観で熱狂的なファンを持つ赤堀雅秋が、前作『その夜の侍』に続いて、同劇団の舞台を映画化した本作。抑圧的な父親のもとに育ち、次第に追いつめられた結果、凶悪な事件を起こすという次男・稔役を選ぶオーディションに、若葉はTシャツにジーンズ、サンダル履きという姿で臨んだ。
「気張った服を着ていることが何だか照れ臭くて(笑)、いつもの服を着た方が自分の持っているものを出せると思って、紆余曲折の末、汚らしい格好になったんです」と笑う。そしてオーディションでは、「『血眼になって地べたはいずり回っても、この作品に挑みたい』と意思表明もしました。演技はほめられましたが、これで決まらなかったらと思って、『もしも決まらなかったら、劇場まで監督を刺しに行きます』とまで言いました(笑)」。
今でこそ半ば冗談のように語るが、オーディションではその並外れた役への熱意も高く買われた。撮影現場では役者を追い込むタイプの赤堀監督ととことん役について語り合い、共演の三浦友和、新井浩文らの胸を借りて演じきった。「もう全カットが本当にきつくて、監督のOKの声がかかるときには記憶が飛んでいました」と振り返る。
若葉は大衆演劇の一座に生まれ、1歳3か月で初舞台を踏み、好きも嫌いもなく役者の世界に。幼い頃は「チビ玉三兄弟」として注目され、子役として活躍したが、10代の終わり頃、自分の将来に悩み、俳優を離れたこともある。「でも一番、自分が真摯(しんし)に向き合えるものは役者しかないとわかった。そのときはショックでしたが、一生懸命にやろうと初めて心底思った」という。今や迷いなく、さまざまな作品に挑む彼には、監督やキャスティングディレクターたちが熱い視線を注ぐ。この『葛城事件』を機にどう化けていくか、期待が高まりそうだ。(取材・文:前田かおり)
映画『葛城事件』は6月18日より新宿バルト9ほか全国公開