バンドを始めた理由はひとつだけ!『はじまりのうた』監督、ルーツを語る
ブロードウェイでミュージカル化された『ONCE ダブリンの街角で』(2006)やキーラ・ナイトレイがみずみずしい歌声を聴かせた『はじまりのうた』(2013)に続き、アイルランド・ダブリンを舞台にした半自伝的な映画『シング・ストリート 未来のうた』が9日に公開されるジョン・カーニー監督。音楽を中心に据えた作品で高い支持を得るカーニー監督作品の、独自の魅力に迫ってみた。
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カーニー監督は『ONCE ダブリンの街角で』に主演したミュージシャン、グレン・ハンサードがフロントマンを務めるロックバンド、ザ・フレイムスの初期メンバーとしてベースを担当、バンドのミュージックビデオの監督をしていた経歴を持つ。
親友でもあるグレン・ハンサードが音楽も担当し、ダブリンのストリートミュージシャンにふんした『ONCE ダブリンの街角で』は低予算の小品ながらも世界的ヒットとなり、アカデミー賞歌曲賞を受賞。翻案されたミュージカル舞台は2012年のトニー賞で主要8部門を独占。次作の『はじまりのうた』にはキーラ・ナイトレイ、マーク・ラファロ、マルーン5のアダム・ラヴィーンらスターが名を連ね、第87回アカデミー賞歌曲賞にノミネートされた。
『ONCE ダブリンの街角で』『はじまりのうた』に共通しているのは、名もないミュージシャンたちに寄せる愛情と、音楽が結びつける絆から珠玉の物語を紡ぎ出すストーリーテラーの妙。過去に「音楽映画専門とは思われたくない」と発言したこともあるが、音楽と映画を自然体で結びつけることができる稀有な名手として評価を集めている。
最新作『シング・ストリート』ではカーニー自身が音楽を始めた1980年代のダブリンを舞台に、好きな女の子に近づきたくてバンドを結成してしまう14歳の少年コナーの青春を描いた。「着想は僕の実体験だけど、内容はあくまでもフィクション」と前置きしつつ、「モテたくてバンドを始めたのは本当。でも、そうじゃないバンドマンなんているかい?(笑)」と少し気恥ずかしそうに、劇中の主人公との共通点を認めるカーニー監督。バンドを組もうと決意するきっかけになった女の子については「今では音信不通で、映画を観てくれたかどうかもわからない」とのこと。
『ONCE ダブリンの街角で』でも『はじまりのうた』でも夢を抱いて故郷を離れる主人公を描いてきた。『シング・ストリート』のコナー少年もまた、大都会ロンドンに出ることを夢見ている。カーニー監督は「成功を求めて国を離れるのはアイルランドの伝統」だと話すが、自身の拠点はずっとアイルランドに置いているという。
6月初めには『はじまりのうた』に主演したキーラ・ナイトレイの演技を批判し、すぐに謝罪コメントを出す騒動も起こしたカーニー監督だが、『シング・ストリート』では自分のルーツに立ち返り、地元ダブリンで無名の子役たちとの仕事を大いに楽しんだようだ。(取材・文:村山章)
映画『シング・ストリート 未来へのうた』は7月9日、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネクイント渋谷ほか全国順次公開