カンヌ受賞の深田監督「日本の映画助成金システムは未熟」!映画人の意識改革が急務
第69回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」で審査員賞を獲得した映画『淵に立つ』の深田晃司監督が26日、渋谷のユーロライブで行われた「カンヌ受賞報告会」に出席し、日仏合作となった同作の制作の裏側を明かした。この日は、出演の浅野忠信と筒井真理子も観客として来場した。
『淵に立つ』がなぜカンヌ映画祭にエントリーできたのか? というところから話はスタート。「作った本人としては、作品が良かったからと言いたいところですが」と笑いながら切り出した深田監督は、「フランスとの合作だったことが大きい」とコメント。フランスで30年近く活動する日本人プロデューサーが参加していること、フランス国立映画・映像センターの「シネマ・デュ・モンド」という外国映画向けの助成金を得られたこと、そして前々作の『ほとりの朔子』がフランス公開されるなどの実績があったことなどを挙げ、「意外と裏技はなくて。現実はコツコツという感じですよ」と明かす。
その流れで深田監督は「日本の映画助成金システムは本当に未熟」と指摘。その一例としてフランスと韓国が結んでいるような「合作協定」が日本にはないことを挙げる。その協定を結ぶことで、助成金を申請しやすくなり、上映もされるようになる。
「しかし日本ではそういうことをしないので、どうしても外国映画としてアクセスせざるを得なくなる」と語った深田監督は、「助成の条件として『フランス人スタッフを起用すること』というのがあったので、この映画の色彩、音の仕上げなどをフランスでやったんですが、隣の部屋では監督が自分でエンドクレジットを作っていて。あまりの貧乏ぶりにビックリされた」と冗談めかしつつも、「フランス人の視点が入ることは映画にとってプラスとなった」と思わぬ効用を挙げた。
さらに「日本の文化予算が少ないということももちろんあるんですが、それと同時に日本の映画人の意識も変えていかないといけない」と力を込めた深田監督は、「ユニフランス(フランス映画の世界への振興を目指した組織)の方たちと合作について話した時、フランス人にとって映画は文化なのに、日本人の行政の人たちは靴や車と変わらないような物言いをして悲しくなると言っていた。そこまで思想が違うと、合作は難しい。それは映画人が『文化には価値があるんだ』ということを行政の人たちに説明できなかったことが大きい。これからは映画人たちの意識改革が大切になる」と真摯に続けた。
なお、同作は9月に開催される第41回トロント国際映画祭のスペシャル・プレゼンテーション部門にも選出されている。(取材・文:壬生智裕)
映画『淵に立つ』は10月8日より全国公開