キム・ギドク監督、最も危険な状態にある韓国に渾身のメッセージを込めた新作
第17回東京フィルメックスでキム・ギドク監督の『The NET 網に囚われた男』がオープニング作品として上映された。上映後のQ&Aに登壇したギドク監督は「憂鬱な映画を観せてしまい申し訳なく思っている」という言葉に続き、「しかしこれが現在の韓国の現実なのです」と言及し「この映画の漁師のように、疑いのある人物がいた場合、網にかかった魚のように残酷に南北双方から扱われてしまうというケースがあるのです」と語った。
本作は、ボートの事故で意に反して国境を越えてしまった北朝鮮の漁師が、南北双方の体制に翻弄される姿を描いている。本作を監督した理由について「今、韓国はどの時代よりも緊張関係が高まって危険な状態にあると感じ監督した」と答え、南北分断をテーマした『プンサンケ』や『レッド・ファミリー』は製作と脚本のみだったが、今回は本格的にシリアスにアプローチしたかったと明かした。
さらに映画を作る目的は「人類の安全を伝えたいから」と述べ、「残忍なシーンや悲しいシーンを通して、人間はより安全に生活できるようになるべきだというメッセージを伝えたい」と続け、本作では朝鮮半島やアジアの安全を伝えたい思いがあったと語った。
音楽については「まずは編集した映像を見て、音楽がなくても映画の持つ真実が伝わることが大切だ」とし、音楽がつくことで観客により真実が伝わるのはよいことだと答えた。
また、漁師を演じたリュ・スンボムの出演経緯については「今は俳優をやっておらずヨーロッパに住んでいる彼が、イ・チャンドン監督と私の作品なら出演してもいいと言っていると人から聞き出演をお願いした」とのこと。すばらしい演技は映画を観ての通りだが、ただひとつ残念だったこととして「北朝鮮に戻るシーンで実際の事例通り全裸になる設定をしていたが、彼の身体にタトゥーがあったため実現できなかった」と撮影秘話を語った。(取材・文:芳井塔子)
第17回東京フィルメックスは11月27日まで開催。映画『The NET 網に囚われた男』は2017年1月7日より新宿シネマカリテほか公開。