三浦大輔、R15+不倫ドラマに「人が欲望に抗う一瞬のためらいを描きたかった」
映像配信サービスdTVのオリジナルドラマにして初のR15+指定作品となった池松壮亮&寺島しのぶ主演『裏切りの街』が映画になり、11月12日より東京・新宿武蔵野館で上映中だ。同作は2010年に上演した、三浦大輔監督の戯曲を自ら映像化したもの。三浦監督は「『裏切りの街』は自分のオリジナルの中でも思い入れがある作品なので、映像に残したいという思いが強かったし、ドラマも当初から劇場公開を想定しながらつくりました。ぜひ大きなスクリーンで見て欲しい」と本作への思いを語った。
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三浦監督は劇団「ポツドール」を主宰し、部屋コンに集まった男女9人の恋模様を描いた「恋の渦」(2006)や、乱行パーティーを舞台にした「愛の渦」(2005)など、性欲に突き動かされる人たちを赤裸々かつ過激に描き、演劇界の鬼才の異名を持つ。本作も出会い系サイトで知り合ったフリーターの裕一(池松)と、15歳年上の専業主婦・智子(寺島)の禁断の愛を描いたドラマだ。
「理性より本能に突き動かされる人たち」という三浦監督が得意とする世界だが、三浦監督は「人間の中途半端さを描きたかった」という。「『裏切りの街』という大仰なタイトルを付けましたけど、人間が誰かを裏切る瞬間って“悪”だけではないのではないかと。『まっ、いっか』と一瞬のためらいは誰しもあって、その“まっ”の瞬間は善じゃないかと(笑)。その欲望に抗えない人間のどうしようもなさとか、裏切る瞬間までの逡巡(しゅんじゅん)とか、その中であまり人が作品にしないような部分を細かく描いてみたいと思いました」。
映像ならではの魅力は、モデルにした東京・荻窪の街で実際にロケを行った事だ。サブカルチャーの聖地である中野や高円寺を要するJR中央線沿線の中でも荻窪は、古くから住む住民の多い落ち着いた街。その街に池松と寺島が佇むだけで背徳感が漂い、物語がよりリアルに、艶めかしくなった。
「戯曲を書く時は舞台でどういう表現をしたいか? から物語を考えるのですが、『裏切りの街』は風景からイメージしました。自分と同じく裕一は東中野に住んでいて、智子は吉祥寺在住の設定だから、真ん中ぐらいだと荻窪かなと。その荻窪という中央線の中でも中途半端な街に、2人が紛れている感じが面白いかなと。実際撮影してみると、確かに彼らだけ浮いていて、これは映像でしか表現できないことだと実感しました。舞台とセリフはあまり変えてないんですが、(二人の関係性は映像を使って)さらに深く突っ込めたのではと思っています」。
ラストには、舞台版にはなかった「その後の2人」が加わった。まともな社会生活を営まざるを得なくなっても、2人は何も変わらず、そして、街の人達に溶け込んでいく。「最近、『優しくなった』と言われます(苦笑)。年齢を重ねて自然にそうなったのかもしれませんが、以前のように人の揚げ足を取ったり、嫌な部分をえぐって観客に絶望を与える事に興味がなくなったというか。それを自分の専売特許のように思っていたのですが、そういう作品が増えすぎて、僕はもういいかなと思ったりしてます」。
今年は佐藤健ら気鋭の俳優らが“競演”した、朝井リョウ原作の映画『何者』も手掛けるなど、常に刺激的な作品を発表してきた三浦監督。現在は「今の状況の中で、皆がまだ気づいていない着眼点で、新しい『面白さ』は何かないかといろいろ模索している最中だという。次はどこへ向かうのか。鬼才の今後の動向に注目したい。(取材・文:中山治美)
映画『裏切りの街』は新宿武蔵野館にて上映中、全国順次公開