佐々木蔵之介、サラリーマン辞めた転機 今も活きる当時の経験
これまでさまざまな人物を演じてきた実力派俳優・佐々木蔵之介(48)。28日に公開される映画『破門 ふたりのヤクビョーガミ』では、スタイリッシュなやくざ・桑原にふんしている。昨年公開された『超高速!参勤交代 リターンズ』では心優しきお殿様を演じたが、本作では眼光鋭く「命をとるかとられるか」の世界を体現。芝居のレンジの広さには舌を巻く。そんな佐々木がサラリーマンを辞め、役者の道に進むことになった転機を語った。
タイプキャストという言葉があるが「佐々木といえば○○」というイメージは、なかなか思いつかない。自身も「自分に色や個性があるわけではないと思っているので、こういうタイプなんだという思いは一切ないですね。逆に『この役、どうやったらええねん』みたいに悪戦苦闘しながら役をつくっていきたいと思っているんです」と俳優としてのビジョンを語る。逆に言えば、どんな役でも自分のものにしてしまう。まさに実力派俳優という言葉がふさわしい。
そんな佐々木が演じるということに触れたのが、大学時代だった。「演劇サークルに入っていて、その関係で大学2年の時に先輩に誘われ、劇団(惑星ピスタチオ)の旗揚げに参加したんです。その時もあくまで先輩に誘われたというのが理由で、役者で飯を食っていこうなんて全く思っていなかったんです」。その言葉通り、佐々木は大学卒業後、広告代理店に就職した。「家業(京都市の造り酒屋)を継ぐつもりだったので、就職したんですね。そこがたまたま大阪本社の採用だったので、会社に行きながら劇団も続けていたんです」。
しかし、ある時に転機が訪れた。「東京の劇団から客演の依頼があったんです。1か月稽古で、2か月間本番。仕事をしながらじゃ無理なので、最初は断ったのですが、その時に『まだ終わらせたくない』という気持ちが湧いてきて、芝居の道に進むことを決めたんです」。
大きな方向転換。そこから現在の活躍につながるのだが、サラリーマン時代の経験は、現在の俳優人生に活きているのだろうか。「大いにありますね。代理店にいたので、興行ということをすごく意識しています。役者は役を演じる仕事でもありますが、興行が成り立つには、役だけではなく、こうして取材していただいたりすることも大事なことなんです。役の上でもどう表現したら相手に伝わるかなど、サラリーマン時代の経験は活きていると思います」。
相手に伝える芝居という意味では、本作で共演した橋爪功とのシーンは見応え十分だ。橋爪演じる小清水はインチキ映画プロデューサーとして、やくざから金をだまし取り、追い込みをかけられる小悪党だ。「小清水は『自分もやってみたいな』と思わせるぐらい魅力的な役。それを橋爪さんがやると聞いたときは、相当面白くなるなと思わずガッツポーズをしました。実際、あそこまで体を使って軽やかに芝居されている姿を見て、僕もいつまでも橋爪さんみたいにありたいなって思いました」と大先輩の立ち振る舞いに脱帽していた。(取材・文・写真:磯部正和)