監督は反トランプで欠席…イラン映画『セールスマン』に外国語映画賞!
第89回アカデミー賞
現地時間26日にアメリカ・ロサンゼルスで第89回アカデミー賞の授賞式が行われ、イランとフランスが共同製作した映画『セールスマン』が外国語映画賞を獲得した。本作のアスガー・ファルハディ監督は、ドナルド・トランプ大統領が発令したイスラム圏7か国出身者の入国を禁止する大統領令への抗議で授賞式を欠席しており、24日(現地時間)には同部門にノミネートされた5作品の監督と連名で「米国をはじめとする国々や民衆の一部、そして『指導者たる政治家』に見られる狂信的な気運やナショナリズムを断固として容認しない」という共同声明を発表していた。
トランプ大統領が誕生した後のアメリカ国内を象徴するかのように、国の分断や多様性といった言葉が飛び交った今年のアカデミー賞で、特にその行方が注目されていた外国語映画賞は、アスガー監督と主演女優のタラネ・アリシュスティが授賞式をボイコットした『セールスマン』に贈られた。アスガー監督の代理人を務めたイラン出身の実業家アニューシャ・アンサリ氏が壇上で監督にかわって声明文を読み上げ、「出席できなくて申し訳ありません。非人道的な法律によって差別され、アメリカへの入国を許可されなかった私の国のほか6か国の人たちを代表し、私は欠席しています」と切り出すと会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
監督は「世界を『自分たち』と『敵』というカテゴリーに分断することは、理不尽な侵略や戦争のための偽りの正当化という恐怖を生みます」と続け、「それらの戦争は侵略の犠牲となる国に住む人々の民主主義を妨げ、人権を奪います」とつづる。そして「映画をつくる人たちは人間の価値にカメラを向け、様々な国や宗教の固定概念を超えることができます。『自分たち』と『他の人』の間に『思いやり』を生み出すことができます。『思いやり』は今日、これまでのどんな時よりも必要とされています」とメッセージを送った。
外国語映画賞に関しては、同部門の候補作の監督たちが授賞式に先駆けて「日曜日の授賞式で外国語映画賞が決まるが、私たちは『国境で分ける』考え方を拒絶する」と共同声明を出し、「最高の国、最高の性別、最高の宗教、最高の人種などないと信じている。この賞が『世界中の国が一つであること』『芸術は自由であること』のシンボルとなることを願っている」と訴えていた。
映画『別離』(2011)でも外国語映画賞に輝いたイラン出身のアスガー監督がメガホンを取った『セールスマン』は、不幸な事件をきっかけに平穏な日々を送っていた夫婦の人生が少しずつ狂い始める様子が描写されるサスペンスドラマ。第69回カンヌ国際映画祭では脚本賞と主演男優賞をダブル受賞している。(編集部・海江田宗)
(第89回アカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされた作品は以下の通り)
『ヒトラーの忘れもの』(デンマーク)マルティン・サンフィリート監督
『幸せなひとりぼっち』(スウェーデン)ハンネス・ホルム監督
『セールスマン』(イラン)アスガー・ファルハディ監督
『タナ(原題) / Tanna』(オーストラリア)マーティン・バトラー監督、ベントリー・ディーン監督
『ありがとう、トニ・エルドマン』(ドイツ)マーレン・アデ監督