自宅で演技指導!『ダークナイト ライジング』出演俳優を輩出した男とは
映画『壊された5つのカメラ』でアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたガイ・ダヴィディ監督が、新作『ミックスト・フィーリングス(原題) / Mixed Feelings』について、3月19日(現地時間)ニューヨークのヒルトンホテルで行われたインタビューで語った。
本作は、イスラエル出身の俳優アミール・オライアンを追ったドキュメンタリー。かつてテレビ界で活躍したアミールは、これまでの名声を捨てて自宅で演技を教えることを決意する。イスラエルとパレスチナの衝突に不満を持つ教え子の若手俳優たちは、その怒りをステージ上で言葉で表現する中、アミールの自宅が戦火に見舞われることになる。
アミールは、どんな人物なのか。ダヴィディ監督は「彼はイスラエルでは有名で、ハビマ国立劇場の一員として活躍していた。彼が20代だった1970年代には数本の映画に出演し、自身のテレビ番組も持つようになった。当時イスラエルでは、公共のチャンネルは一つしかなかったため、誰もが彼を知っていた。ところが彼は、有名であることが煩わしくなり、俳優としての仕事を辞めた。そして1980年代から1990年代の前半にかけてイスラエルの新聞社で舞台の批評家をするようになった。その後は、舞台劇を教えるようになり、映画『ダークナイト ライジング』に出演した俳優アロン・アブトゥブールなど、多くのイスラエルの俳優を輩出したんだ」と説明した。
アミールとの出会いについて「僕はフィルムメイカーになった当初から、ずっと長編作品を手掛けたいと思っていた。ジョン・カサヴェテスの演出に憧れていた僕は、教科書通りの映画学校が嫌で中退した。それでも長編映画を作りたかったが、俳優を演出するには、限界があった。そこで俳優だけを指導する先生を探していた際に、力強い演出をしていたアミールと出会った。彼は映画機関や俳優養成所を経営せず、単に家で演技を教えているだけだが、逆に強烈な印象を受けた」と明かした。
今作を通して伝えたいことは「僕は映画製作で(他国の)人々とつながりたいと思ったし、さらに人として繊細な部分も磨ければ良いとも感じた。そして、物事を詳細に見ても、大局的見地から見ても、誰もが異なる人間であるという認識を、(イスラエルとパレスチナの衝突を含め)観客の間で高めていってほしい」と語った。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)