美と幸福は人々を支配する“独裁者”…奇形の人々をパステルカラーで彩った異色作
奇形であるために社会から拒絶された人々の親密なる体験を毒々しいほどメルヘンチックなビジュアルで描き出した映画『あなたに触らせて』(英題:Skins)で長編監督デビューを果たしたスペインの新鋭エドゥアルド・カサノバが、スペイン・マラガ映画祭にて、本作のテーマでもある“美と恐怖”などについて語った。
ベルリン国際映画祭パノラマ部門での上映に続き、自国スペイン・マラガ映画祭の上映でも盛り上がりを見せた本作は、消化器官が逆さまになっているサマンサ、目のないローラ、変形した顔を持つアナを主軸に、奇形であるために社会から拒否された人々が築く人間関係を独特のトーンで描き出したダークコメディーだ。
本作ですぐさま目を奪われるのが、ピンクとパープルにあふれたドールハウスのような世界観。そのメルヘンなビジュアルは、キャラクターたちが向き合う現実の残酷さを一層際立たせている。エドゥアルドはその色の選択について「恐怖こそ、ブラックやレッドではなく、ピンクと結びつけたほうが面白いと思った。どんなことをどんな色でも定義できると思う。社会にある固定観念を打ち壊したかったんだ」と話し出す。それは、エドゥアルド自らが感じた“美と恐怖の関係”を反映しているという。「例えば、ショッピングモールには花や洋服、美しいものが並んでいるけど、その裏ではバングラデシュの子供たちが長時間労働をさせられていたりする。ほかにも、北朝鮮の写真を見たときに、すべてがあまりにも美しく整っていて、完璧な美に隠された恐怖というものを感じた。美しいものの裏にある恐怖。美と恐怖は表裏一体のものだと思ったんだ」。
「美や幸福は人々を支配する“独裁者”だと思う。現代社会において、若くなくてはいけない、美しくなくてはいけない、幸せでなければいけないという脅迫観念に人々は駆られている。女性は問題を起こさず、あまり主張せず、若く美しく、社会的に認められなくてはいけない。この映画は社会が“美しいもの”として突き付けてくる固定観念に縛られていない女性の物語でもある。社会の基準に外れているからといって、彼女たちが醜いというわけではない。社会が美しいものとして取り上げないかもしれないだろう彼女たちも、美しいに違いない。この映画で社会批判をしたかったわけではないけど、社会が突きつけてくる価値観への反逆行為なんだ。同時に、この映画をつくる過程で、社会について理解しようとした。女性について、いかに社会で女性が軽視されているかや、善なる悪について学ぼうとした。良い人も悪い人も、すべての人について。そういう意味で、この映画は排他的主義を批判している。この映画はすべての人を理解するもの。それがうまくいったかはわからないけど、僕はこの映画で人々を理解することを目指した」。
そのため、奇形についてのリサーチは特にしなかったそうで、「目のない女性や、お尻の穴が口になっている女性はたまたま思いついただけで、リサーチしたわけではない。そもそも病気に関する映画をつくろうとしたわけではなく、人間についての映画をつくろうと思ったわけだから。この映画は、身体的奇形も心的奇形も描いている。身体的に奇形なキャラクターたちは自由で、精神的には健康的なんだ。一方で、身体的に奇形でないキャラクターたちは、より野心的であり精神的な闇を抱えている。この映画が始まったらすぐにも、キャラクターたちが奇形であることを忘れてほしいというのが僕の望みだった。脚本を書いているときは常にそのことを考えていたよ」と説明する。
また、本作には若手監督のデビュー作とは思えないほど、スペインを代表する豪華キャストが集結している。それは、スペインで子役時代から活躍してきたエドゥアルドだったからこそ、実現できたドリームキャストと言えるだろう。さらには、『気狂いピエロの決闘』などで知られるスペインの鬼才アレックス・デ・ラ・イグレシアと、その妻で女優のカロリーナ・バングがプロデューサーを務めており、エドゥアルドは「不満を言うことはできないよ。アレックスとNetflixのおかげで、たった1年半で映画化できたんだからね。それにすべての俳優がこの映画に快く出演してくれた。そういう意味でこの映画をつくるのはとても簡単だったし、ラッキーだったと思う。でも、僕自身は長い間取り組んだきた作品だったから、この映画に捧げた時間が、1分でもまるで5年かのように長く感じた」と完成までの道のりを振り返っていた。(編集部・石神恵美子)
映画『あなたに触らせて』(英題:Skins)はNetflixで公開中