アルメニア人虐殺と否定する政府…ドキュメンタリーの立ち位置とは
映画『メタリカ:真実の瞬間』『ブレアウィッチ2』のジョー・バーリンジャー監督が、トライベッカ映画祭で上映された新作『インテント・トゥ・デストロイ(原題) / Intent to Destroy』について、4月26日(現地時間)ニューヨークのスミスーア・トンプソン・ホテルでのインタビューで語った。
本作は、今から約100年前、オスマン帝国(現トルコ共和国)の少数民族アルメニア人が強制移住させられ虐殺された事件を、歴史学者、哲学者、さらにこの事件を描いた長編映画『ザ・プロミス(原題)/ The Promise』(オスカー・アイザック出演)の関係者に取材し、今でもトルコ政府がこの事件を否定し続けるその原因に迫っていくドキュメンタリー。
今作のプロデューサー、エリック・エスレイリアンから、映画製作を持ちかけられたというバーリンジャー監督は「当時僕は、アルメニアの大虐殺を映画化したいと思ってなかった。僕は過去の題材よりも、現在の出来事を題材にし、実際の人物や出来事をドキュメンタリー調に撮影することを好むので、歴史的題材を描くタイプの監督ではなかった。それでもエリックとはその後も連絡を取っていて、彼が『ザ・プロミス(原題)』の製作を本格的に始動させたとき、僕がその作品の製作過程を映せば、現代の人々にこの大虐殺を伝えやすいのではと感じた」と突然の思いつきから今作が製作されたことを語った。
今作の構成について「『ザ・プロミス(原題)』のメイキング映像を使用するが、アルメニア人の大虐殺の話を伝えるだけでなく、トルコ政府がアルメニア人の大虐殺を否定し続けた歴史も描いた。否定してきたトルコ政府の内部事情やその否定がもたらした影響も描き、これまで描かれていないアプローチをした。ただ一方的に片方に偏ることを避け、デス(死)、ディナイアル(否定)、ディピクション(描写)の3部構成にした」と説明した。
ドキュメンタリー監督として中立的な立ち位置にあるべきだが、題材が虐殺を描くため、中立で描くことは困難ではなかったのか。「中立であっても、それは意見を持たないということではない。僕は大虐殺が行われたかの有無を問わず、作中の僕の(中立の立場で描くという)立ち位置を明確にすることで、両サイドから伝えるバランスの取れた作品になった。大虐殺を否定する人々でも、あえて道徳が欠乏した人とは思わず、全ての話し手に敬意を表し、人間的なアプローチをした」。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)