トランプ大統領誕生を映画が予言 町山智浩が驚愕する類似点
スターチャンネルが、映画評論家・町山智浩の著書「最も危険なアメリカ映画/『國民の創生』から『バック・トゥ・ザ・フューチャー』まで」(集英社インターナショナル刊)で取り上げられている映画の中から、アメリカが内包する数々の社会問題を鋭く描いた9作品をセレクトし、7月15日より特集放送する。独裁者を生み出す民主主義の“負”の側面を浮き彫りにしたラインナップについて、「なぜ、ドナルド・トランプ米大統領は誕生したのか? その答えがここにある」と町山が語った。
アメリカ初の長編映画『國民の創生』(1915年)は、映像技術や表現の基礎を作ったと言われているが、壊滅状態にあったKKK(クー・クラックス・クランの略称、米白人至上主義団体)を正義として描き、黒人へのリンチを復活させた罪深き作品。「確かに技術的にはすごいけれど、それを言ったら武器だって同じこと。この映画は優れた兵器みたいなもの。性能はいいが人殺しの道具」と町山は指摘する。奇しくも、そのKKKが正式に支持表明したトランプがアメリカの大統領に就任したが、「KKKが推す人が大統領になるなんて、恐ろしい世の中」と憂いは深まるばかりだ。
そして、タイムリーというべきか、町山の著書発刊のすぐあとにトランプ政権が発足するが、今回ラインナップされた作品の多くが、「まるでトランプ大統領誕生を予言していたかのような作品」という面白い現象が起きている。「アメリカでは、トランプが大統領候補として出てきたとき、(特集で放送される)『群衆』(1941年)や『オール・ザ・キングスメン』(1949年)、『群衆の中の一つの顔』(1957年)、『ボブ★ロバーツ/陰謀が生んだ英雄』(1992年)とそっくりだ! 映画で警告していたことが現実になるとは……とメディアが報道していた」という町山。
とくに『ボブ★ロバーツ』は、「トランプ物語ではないか」というくらい類似しており、「素行が悪くミリタリー・スクールに入学し、その後、ニューヨークでビジネスを成功させ、大富豪になるところはほぼ同じ。さらに共和党で出馬し、女性差別発言や国境に壁を築け発言など、もはやトランプ大統領誕生を予言していた映画と言わざるを得ない」と町山も驚きの表情を隠せない。さらに現在、ロシアゲート疑惑が取り沙汰されているトランプだが、これも今回放送される『影なき狙撃者』(1962年)と重なる内容。映画は、アメリカの政治家が実は敵国ソ連のスパイだった、という話だが、まんざら絵空事ではないだけに、その恐ろしさが胸に迫る。
「映画を観ていて、『なぜ、この描写があるのか?』と心に引っ掛かるシーンがあったら、後で紐解いてみると、また違った意味が見えてくる」と語る町山。それは、アメリカ映画だけでなく、日本映画でも同じことが言えるという。「例えば、『この世界の片隅に』(2016年)で想像妊娠するシーンが出てきますが、あれは何の意味があるのか? と疑問に思った方はいるでしょうか。この作品は反戦映画と捉えられているかもしれませんが、実は当時の家制度について描かれているんです。望まない結婚を強要され、好きな職業にも就けず家事労働に明け暮れ、子供を産まないと意味がないと迫られる。とんでもない女性虐待があったことに気付かされるんですね」と分析してみせた。
映画をさまざまな角度からひも解くことで、映画の面白さ、意味深さがさらに倍増する。町山がセレクトした本特集は、新たな映画鑑賞の扉を開くことになるかもしれない。(取材・文・写真:坂田正樹)
「町山智浩の“最も危険なアメリカ映画”」特集は、スターチャンネルSTAR2 セレクトで7月15日より放送