高橋一生&武井咲のショートドラマにドキッとするワケ
高橋一生と武井咲が共演した連続ショートドラマ「Laundry Snow」が話題を呼んでいる。監督・脚本は、Amazonプライム・ビデオのオリジナルドラマ「東京女子図鑑」が第33回ATP賞テレビグランプリで特別賞を受賞したタナダユキ。これまで『百万円と苦虫女』(2006)など世知辛い世を逞しく生きるアウトローなヒロイン劇を描いてきたが、久々となるファンタジーに「キラキラした世界がわたしに来て驚きました」と自身にとっても新たな挑戦だったことを明かした。
同作は、クリーニング店「Laundry Snow」を舞台に、ある魔法にかけられた店主(高橋)と、客の椿と花(武井の一人二役)が織りなす時空を超えた美しくも切ないラブストーリー。朝篇「21:25 東京発、プラハ行き」と夜篇「夏ノ空ニ、降ル雪ハ」の2本立てで、朝篇に散りばめられた意味深なセリフや表情が、夜篇で解き明かされていくという実に見応えのある作品に仕上がっている。
資生堂の薬用美白スキンケアパウダー「スノービューティー ホワイトニング フェースパウダー 2017」のプロモーションの一貫であることから、商品コンセプトの「願い続けることが、いつか奇跡を起こす」や、24時間使用可能という商品の特性を生かした朝篇と夜篇の制作、さらに美白を連想させるクリーニング店であることなど、企画段階で提示されたキーワードがいくつかあったという。
しかし商品そのものは「コンセプトに則った夢や希望を抱けるような内容であれば、全く出てこなくてもいい」(資生堂)という企業広告動画らしからぬ寛容さで、タナダ監督も「こちらが気を遣って商品を入れたぐらい(笑)。衣装もデザイナーのスズキタカユキさんに、心情に合わせた白と黒の服を一から作っていただくなど、自由に創作させていただきました」という。
キャスティングは先に決まっており、タナダ監督は「この2人でどういう世界が見たいのか?」を想像しながら脚本を執筆したという。いわば“あてがき”で、高橋には職人のキビキビした動きを。武井には23歳のみずみずしさと、正統派美女の美しさの両方が際立つ二役を用意し、往年の日本映画を彷彿とさせるようなライティングとカメラワークで際立たせている。
タナダ監督は、2人とは初対面で「武井さんはデビュー当時からスター街道を歩んで来られた人。自分からするととてもまぶしい存在で(笑)。でも気取らずかわいくて新鮮でした。高橋さんは昔から業界の裏方さんたちの評判も素晴らしく、今の人気もその皆が喜んでいるほどでご一緒したいと思っていたのですが、これまではなかなか彼の年齢に合う役がなかった。プロフェッショナルな2人なので2日間の撮影もスムーズに進み、期待以上の芝居を披露してくださった」と撮影を振り返る。
中でもファンを悶絶させているのが、高橋が愛する人への思いが届かぬ時に見せる憂いを帯びた表情や、強引にキスを迫るシーン。これもタナダ監督の“策略”で「思慮も分別もある大人の男性が運命の女に翻弄され、子供のようにワガママになってしまう瞬間ってとても素敵だと思っていて、それがやれてうれしかった」と笑う。
そんな悶々とした日々を乗り越えて、高橋(演じるクリーニング店の店主)が人生の岐路に立っている運命の人の背中を押すように語りかける「この先何を選んでも、後悔がないなんてことはありません。でも、これで良かったと思える、いい後悔をしてください」(朝篇)というセリフが胸に響く。デビュー映画『モル』(2001)がぴあフィルムフェスティバルでグランプリを受賞してから17年目。酸いも甘いも噛み分けながら己の道を歩んできたタナダ監督だからこそ生まれた言葉であり、今を生きる多くの人たちに向けたメッセージだろう。
タナダ監督はこのセリフについて「自分自身も、年齢を重ねてきての実感からくる言葉でもありました。迷った時に、その時の自分の精一杯の選択をし続ければ、それでいいんじゃないかと。完璧なんてないし、どうせ後悔するんだから、安心して迷って、何を選んでもいいと、自分に言い聞かせています(笑)」と思いを語る。
スノービューティーのショートドラマは、2015年が二階堂ふみ×星野源、2016年が二階堂ふみ×窪田正孝と続き、今回が第3弾。話題のキャスティングによる、1年に一度の夢のような世界を楽しみにしているファンも多いが、第3弾の配信も年内いっぱいの期限。タナダ監督は「自分がこの世を去った後、もしも、どなたかがどこかでわたしの特集上映を組んで下さるなら、映画作品だけでなく、ぜひ『スノービューティー』のショートドラマも映画館で上映してほしいです(笑)」と声を大にしてアピールしている。(取材・文:中山治美)