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物議醸した問題作『エル ELLE』にはあちこちに深いテーマが…イザベル・ユペールが語る

来日したイザベル・ユペール - 撮影:依田佳子
来日したイザベル・ユペール - 撮影:依田佳子

 自宅で覆面をした男にレイプされ、警察に届けることなく淡々と犯人捜しを始めたかと思えば、予想外の行動に出るヒロインを描いて物議を醸した問題作『エル ELLE』。そんな大胆で並外れたヒロインを軽やかに演じ切り、自身初のオスカーノミネートも果たした仏女優イザベル・ユペールが、本作の根底に流れる深いテーマについて語った。

映画『エル ELLE』フォトギャラリー

 メガホンを取ったのは『ロボコップ』(1987)などの鬼才ポール・ヴァーホーヴェン監督。原作にほれ込み、ヴァーホーヴェン監督の才能にも確信があったというユペールは、この難役を引き受けることに何の不安も心配もなかったと明かす。「確かにこのミシェルという人物は、レイプされても冷静に受け止めるという、本当に特殊な人格を持った人だとは思います。ただ脚本でも原作でも、モラルが説かれています。過ちを犯した人に復讐をしようと計画を立て、最終的には罰せられる……こうした一つの完結したストーリーになっているんです」。

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 「この作品の軸となっているのは、人物の存在の仕方です。この作品の中にはセンチメンタルなものは一切ない。あるのは“皮肉”です。皮肉とはとても重要なもので、観客と作品の距離を作ってくれる、作品をしかるべき位置に置いてくれるものだと思います。その距離があるからこそ、このようなストーリーでも受け入れられる状態になるんです」。

 レイプに対するミシェルの反応が話題になりがちだが、本作はヒロインと元夫、疎遠になっている父親、母親とその若すぎる恋人、親友、不倫相手、息子とその恋人という彼女を取り巻く多様な人間関係が描かれている点も特別だ。「現実にはいろいろな関係があるのに、映画で描かれるのはそのうちのほんの一部だということが多いのですが、この映画のミシェルは社会的地位があり、母であり娘であり、元夫との関係や親友と親友の夫との関係など、本当にいろいろなありとあらゆる関係が描かれています。まさに、その多様な人間関係がとても気に入っているんです」。

 病院でミシェルの息子の交際相手が赤ちゃんを産み、別の男性の子供だということは誰の目にも明らかながら、息子が能天気に喜ぶシーンには笑わせられるが、そのシーンにも深いテーマがあるとユペールは言う。「ミシェルの息子は、生まれた子供が自分の子供ではないことをよくわかっている、だけどその子供を愛しているし、愛そうとしていることが次第にわかってきます。そして、ミシェルは自分の父との関係がとても複雑。そうなるとどうしても考えさせられるのは、家族の絆とは何なのかということ。生まれてきた家族をそのまま受け入れた方がいいのか、それとも自分が選んで構成した家族を愛する方がいいのか……。家族とは何なのか、家族の絆とは何なのか、というような非常に深いテーマがあちらこちらに含まれているんです」。(編集部・市川遥)

映画『エル ELLE』は公開中

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