まさに夢の対談!日本公開中止『マザー!』監督、奇才ホドロフスキーから助言
『エル・トポ』など伝説のカルト映画監督として知られ、88歳にして最新作『エンドレス・ポエトリー』の日本公開を今月迎えるアレハンドロ・ホドロフスキー(88)と、『ブラック・スワン』で世界を魅了し、新作映画『マザー!』が物議を醸すことになったダーレン・アロノフスキー(48)の対談が TALK HOUSE のポッドキャストで実現。ハリウッドでの苦い経験があるホドロフスキーが、ダーレンと “映画作り”について激論を交わした。
現実と幻想が溶け合う…ホドロフスキー最新作『エンドレス・ポエトリー』予告編
若いころからホドロフスキーの大ファンで、全ての作品を鑑賞しているのはもちろんのこと、2006年のシッチェス・カタロニア国際映画祭で見かけた際には思わず駆け寄ったというダーレン。「あれは映画の上映後でした。あなたを見かけて駆け寄りました。とても感謝していましたから。『ファウンテン 永遠につづく愛』はあなたの影響を大きく受けた作品だったので」。それに対しホドロフスキーも「でも君は僕が尊敬する監督の一人なんだよ。君の一作目の『π<パイ>』を観てわかったんだ。君が求めているのは魂の真髄だってことをね。とても大きな魂の探求だということを」と敬意を払い、「それに君はよく商業映画と闘っている。ハリウッドには君の作品のようなものは他にないと思う。そして『レスラー』のようなさらに力強い映画を発表した。僕が君を絶賛するのは、君が新しい道を切り開いているからだよ。『ブラック・スワン』にも、とてもひき込まれた。そして思ったんだ、“彼ならこの汚い映画界をサバイブできる。ハリウッドを!”」とこの上ない賛辞を贈る。
しかし、ダーレンは思わず「どうかな? ハリウッドには映画好きな人がたくさんいるけど、少し背伸びをして違うことに挑戦するのは難しいですね。時に最初の意図から離れてしまうこともあるし」と吐露。ホドロフスキーも「最初は簡単なんだ。金がほしくて金をゴールにする。そして金のために働く。そうなると意味が変わってくる。自分や仕事に投資できなくなってしまうんだ。本当は作品を作ることに集中すべきなのに」と理解を示す。かつてホドロフスキーはSF小説「デューン」の映画化に情熱を注ぐも、ハリウッドからの支援を得られず。その後、同小説はデヴィッド・リンチに映画化されてしまったというハリウッドでの苦い経験がある。
「作品は金を反映する栄誉となる。しかし、映画は真実を描くことや親切さを感じることができなければいけない。世界を救うために映画を作るのさ。エゴから抜け出して、人間とはなにかを考えることが必要で、最終的に人間について問うことが大切なんだ。芸術にはゴールがあるんだ。芸術のゴールとは何か? 表現者は何を求めているのか? 自分の価値を見出して、それを人前で見せることだ。人々が味わったことのない感覚とともに。でもハリウッドはそんなことしない。ただビジネスを生み出すだけだ。君だから話してるんだよ。他の人だったらこんな風に話さない。世界はひどい状況にある。わたしたちが変えていかなくちゃいけない。どうやって世界を変える? ひとつの方法として精神性が必要だ。今はうまく機能しなくなった精神がね。そこを変えなくちゃならない。でも人はちっぽけな存在だ。どうやって世界を変える? 私はまず自分を変えることから始める」。そう熱弁するホドロフスキーにダーレンも聞き入る。
ホドロフスキーは「私は金のために映画を作らない。金を“失う”ために映画を作るんだ。私が言いたいのは、もし神が金を与えたなら、それは私が頼んだからではないということだ。ただ神が与えただけだよ。私は空を飛ぶ車や大きな家や恋人がほしいわけじゃない。仕事を続けるために金をつかうんだ。前進するにはどうやって観客に与えるかを学ばなければならない。それは自分が自分に与えることでもある。でも私は観客に与えることができなければ何もいらない。なぜ限られた人たちだけが金を手にするんだ。全く持っていない人はたくさんいるのに。言わせてやりたいよ。『私たちは金の奴隷です』とね。映画業界は泥棒の寄せ集めさ。みんな金を吸い取っていく。これが現実さ。すべては金のせいだ。でもこのシステムを変えなきゃいけない。金の連鎖を断ち切るんだ」とさえ言う。
ダーレンに『リアリティのダンス』(2014)まで23年の空白があった理由を問われると、「映画を作るために立ち止まった。泥棒にとられずに資金ぐりをするためにね。 誰も『ああしろこうしろ』『あれをするなこれをするな』などとは言わない。私は私の撮りたいものを撮るんだ! どんなものでも作る。私は映画芸術に未来の可能性を感じているんだ。ハリウッドに支配された映画界では無理だよ。しかも彼らはまとめ売りをする。すべてを言いなりにさせて商品を売る。そんなやり方と戦わなくては。彼らは映画を殺してる。映画は死に向かっているんだ。テレビシリーズの映画化を見てみろ。やつらはすぐにシリーズを作る。すべてはそこが鍵だと思っているからだ。私は自由に撮るために根回しをしたんだ。舞台セットも作ったからずっと働いていたよ。妻は衣装を作り、息子を出演させて、撮影場所もいいところを選んだ。みんな協力してくれたよ。どこか心の琴線に響いたんだろう。若人はみな停滞している状況に飽きていて、共に製作することで得られる新しい何かを求めている」。
「私はというと、人生も残り12年ぐらいのものだからね。次回作は、3部作。『リアリティのダンス』『エンドレス・ポエトリー』の次の作品さ。若いころアートに触れるためにパリやメキシコに行きたかった。それが始まりだよ。あとサイコマジックのドキュメンタリーを撮る。“サイコマジック”とは私が作ったセラピーの言葉だ。ああ。それから『エル・トポの息子』を作る。もう何年も取り掛かっていないが。しかし、金がない。とても高い制作費になるだろう。それからアニメを作ることにした。天才的なアニメ作家を見つけたんだ。彼が書く絵とともに3シリーズで映画を作る予定だよ」と、衰えることを知らない創作意欲をうかがわせるホドロフスキー。それにはダーレンも「ファンとして、この先12年の間にあなたが5本以上の映画を撮ってくれることを期待してますよ。撮り続けてください。2年に1本ですね」とエールを送ると、ホドロフスキーは「撮り続ける、じゃなくて生き続ける、だろう?(笑)」と茶目っ気たっぷりに応える。ダーレンも自らの新作『マザー!』について「早く私の新作も見てもらいたいです」と語り出し、ハリウッドでの製作について「実は完全に自由にさせてくれてはいるんです。予算をかけていないので」と打ち明けると、ホドロフスキーは「いくらぐらい?」「2,000万ドル?」と興味津々。それにはダーレンが「お金の話はちょっと……(笑)」「マイクがオフになってから話しましょう(笑)」と切り抜けるも、ホドロフスキーは「後でね。2,000万ドルかな?」「ハリウッドで少ない予算とはいくらぐらいなのか知りたい。私は無一文だから(笑)。2,000万ドルあったら、10本映画を作れる」と最後まで食いつくのだった。
この対談は『マザー!』が完成する前のことであり、その後、ベネチアなどで賛否両論が飛び交うことになる。その状況に鑑みてなのか、米パラマウント・ピクチャーズの意向で、『マザー!』の日本公開が今月に入って中止となった。傑作であっても、良い興行成績を残せない映画は葬られてしまうのか。奇しくも、苦境に立つことになってしまったダーレンに、この日のホドロフスキーの言葉が救いになりそうだ。(編集部・石神恵美子)
映画『エンドレス・ポエトリー』は11月18日より全国公開