『湯を沸かすほどの熱い愛』監督、外国語映画賞への想いを明かす
日本代表として第90回アカデミー賞外国語映画賞にエントリーされた『湯を沸かすほどの熱い愛』について、中野量太監督が、12月6日(現地時間)、ロサンゼルスにて電話インタビューに応じた。
本作は、宮沢りえと 杉咲花が母娘を演じ、余命宣告を受けた主人公の奮闘に迫る家族ドラマ。夫の失踪以来、家族で営んでいた銭湯を休業したまま、娘の安澄(杉咲)と共になんとか生活していた双葉(宮沢)。ある日、末期がんを告知された彼女は、余命わずかの中、娘のためにやるべきことをやり遂げる決意する。
娘の安澄役について、一度も会ったこともないにもかかわらず、杉咲を念頭に入れて脚本を執筆したという中野監督。その理由について、「女優の良さを言葉で表現するのに“感度”という言い方をしますが、テレビや映画を通して、彼女の演技を見ているだけでその“感度”を感じていました。僕は、人間の愁いや寂しさみたいなものを背負っていないと芝居はできないと思っていて、彼女からはそれが感じられたんです。だから、どうしても彼女と一度(映画を)やってみたいという思いで、当て書きで脚本を執筆しました」と明かす。実際に杉咲に会ってからも、それほど脚本を改稿することがなかったほど、イメージ通りの人物だったようだが、彼女の演技に対する根性には驚かされたそうだ。
女優魂という点では、宮沢も。病状が悪化する中での彼女の役へのアプローチには圧倒されたという。「こだわりを持った女優の意地を彼女からは感じましたね。僕も、終盤に向けて肉体的なアプローチはしてほしいと思っていたんです。それを告げようとしたら、向こうから『最後だけは、ちゃんとやりたいから、わたしに1週間ちょうだい!』と言ってきたんです。ただ撮影自体が3週間しかなく、さすがに1週間は無理でしたが……。それでも5日間であそこまでアプローチして頂きましたね」と感謝を述べた。
印象的なタイトルについて、「基本的にあまのじゃくなところがある」と自身を分析する中野監督は、「毎回ちょっと、(人が)何だろう? と思う題名にしているんです。今回はタイトルに『愛』と付けるのに根性がいりました。でも最初から『愛』の話にしようと思っていたので、覚悟を決めてタイトルに『愛』を入れました」と説明。脚本執筆前からタイトルは決めていたそうだ。
最後に、今作が日本代表としてアカデミー賞外国語映画賞に選考されたことについてきいてみると、「もともと映画は言語の壁を越えるツールだと思っていて、日本だけでなく、海外の人にも伝わるものを作りたいと思っていたので、今回選考されたことで、よりその思いは強くなりました。これからも、そういうものを作っていきたいと思います」と中野監督。アメリカの観客に向けては、「今作の土台にあるのは結構厳しい話ですが、(アメリカ人にも)共通の家族愛の話なので、人間は一生懸命生きれば生きるほど滑稽というか、みんなが前向きに生きていれば、笑える話だと信じています。そういった部分を、アメリカ人にも笑ってほしいですね」と語った。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)