ディズニーによるフォックス買収で現地パニック…大規模解雇、製作本数減少、危惧する声も
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ディズニーがフォックスを買収するニュースが、ハリウッドをパニックに陥れている。もちろん世界中でニュースになっているだろうが、お膝元のLAでは、直接の影響を受ける人がたくさんいるのだ。(Yuki Saruwatari/猿渡由紀)
大人向け作品、減少へ?フォックスが手掛けた『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』場面写真
まずは、言うまでもなくフォックスの社員。政府が独占禁止法に触れないかどうかの判断を出すまでには1年から1年半ほどかかるが、許可が出たらフォックス側で大規模なレイオフがなされることはほぼ間違いない。マーケティングや配給の部門はひとつに統合されるだろうし、トップの人材も、新体勢のもとでは行き場がなくなる。ニュー・ライン・シネマがワーナー・ブラザースに完全に統合された時には、ニューラインの大部分が職を失った。その前例を思い出し、フォックスの社員が早々と履歴書の準備を始めている様子が想像される。
買収後もそれほど変わらないと見られているテレビの方とは違い、映画は、フォックスが現在製作する年およそ25本から大きく減らされるだろうというのが大方の予測だ。製作される映画の本数が減れば、監督、脚本家、プロデューサーにとって、情熱のプロジェクトを実現させる道がさらに狭まる。
大型予算をかけた、世界中で受けるイベント映画を専門にするディズニーと違い、フォックスは今月北米公開予定の『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(スティーヴン・スピルバーグ監督)のような大人向けの映画も作り続けている。しかし、ディズニー傘下で仮に年に6本程度しか作らないということになり(ディズニー傘下にあった頃のミラマックスが、最後の方はその程度の本数だった)、その限られた本数も『アバター』『X-MEN』など娯楽作品を中心にすることになれば、フィルムメーカーたちはあいかわらず厳しい状況にあるインディーズの道を選ぶか、あるいは逆に黄金期を迎えているテレビまたはストリーミングに話を持っていくしかなくなる。
脚本家たちは、別の理由でもこの買収を危惧する。脚本家組合は、数年ごとに6つのスタジオと話し合いをもち、脚本家たちの待遇について契約を結ぶ。現在でも脚本家は不利な要求を受けていると感じているのに、6つが5つになってスタジオ同士の競争が減り、仕事がより少ないところに集約されると、相手はさらに優位になって、こちらを締め付けてくるだろうというのだ。脚本家組合は、買収のニュースが出た2時間後に、早くも警告の声明を発表した。
劇場主の間でも不安が漂う。アメリカでは、スタジオと劇場主の間で売り上げの配分を含めたさまざまな取り決めがなされるのだが、ライバルより強い立場にあるディズニーは、今ですら他より強気な条件を提示するのだそうだ。フォックスを買収して市場の4割をコントロールするようになったディズニーに対し、劇場主は言うことを聞く以外になく、状況はますます厳しくなるとの予測も聞かれる。
そしてもちろん、Netflix。ディズニーがフォックスを買収する大きな目的は、独自のストリーミングサービスを始めるにあたってのコンテンツ確保だ。その計画のもと、すでにディズニーはNetflixから自社作品を引き上げることを発表している。ディズニーだけでなく、フォックスの作品も取り上げられるのは、Netflixにとってかなり痛い。それだけでなく、それらのコンテンツを持つ巨大なライバルまで誕生するというのだ。
Netflixやアマゾンは、ますます映画スタジオからトップの人材を誘致し、コンテンツ製作面で競争力をつけようとするだろう。それは映画とストリーミングの力のバランスの変化に、さらに拍車をかける。全てが今、大きく変わろうとしているのだ。