アカデミー賞最有力!特殊メイク辻一弘、授賞式前日の思い語る
第90回アカデミー賞
第90回アカデミー賞メイク・ヘアスタイリング賞のノミネート者たちを一堂に集めて行われる、毎年恒例の「オスカーウィーク:メイクアップ・アンド・ヘアスタイリング・シンポジウム」が、授賞式を翌日に控えた現地時間3日、ビバリーヒルズにある映画芸術科学アカデミー(AMPAS)本部で開催された。今年は、『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』『ワンダー 君は太陽』『ヴィクトリア&アブドゥール(原題) / Victoria & Abdul』の3作品のヘア&メイクのアーティストたちが参加した。
『ウィンストン・チャーチル』で名優ゲイリー・オールドマンを見事にチャーチルに変身させ、明日の受賞が確実視されている日本人特殊メイクアップ・アーティストの辻一弘は、本番を翌日に控えた心境について、「明日が待ち遠しいです。早く終わらせたいです。(キャンペーンが)長かったので」と笑顔で今の正直な気持ちを語ってくれた。
『もしも昨日が選べたら』と『マッド・ファット・ワイフ』で、これまで2度アカデミー賞にノミネートされ、今回が3度目のノミネーション。今回は「映画の内容も全く違うし、作品の評価も違うので、これまでとは全然違う経験になっている」と言う。
メイクのデザインを考える上でも辻は、チャーチルの見た目だけでなく、「彼がどういう人だったかを理解するために、出来る限りリサーチをし、彼のエッセンスをメイクの中で表現しようとした」と明かした。一番苦労した点は「チャーチルの見た目をそのままゲイリーにあてはめようするとマスクを着けたようになるので、彼の顔に合わせながらそのバランスを取ることだった」と振り返った。
辻のデザインを現場で実際にオールドマンに施し、今回一緒にノミネートされているデイビッド・マリノウスキとルーシー・シビックも辻とのコラボを大いに楽しんだと言う。メイクアップ・アーティストとして、『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』や『ワールド・ウォー Z』などを手がけたベテランのマリノウスキは、辻のメイクの素晴らしさについて、「肌の質感や、肌の毛穴など、スクリーン上で見る時、どれだけカメラが近づいても、(本物の)肌のように見えるんだ」と辻の仕事の完成度の高さを絶賛。また、ルーシーも「彼は本当に寛大で、いつも私たちに何か貢献できると感じさせてくれたわ」と彼の人柄をたたえた。
また、この作品で主演男優賞を本命視されているオールドマンも、先日の全米映画俳優組合賞(SAG賞)で主演男優賞を受賞した時をはじめ、受賞スピーチでは必ず、辻をはじめとするメイクアップ・チームに感謝の言葉を述べている。辻もメイクが役者をいかに助けるかについて、「もちろん役づくりの一部なので、大事ですね」と、オールドマンの仕事を振り返りながら、「ゲイリーにはぜひ(主演男優賞を)受賞して欲しい」と述べた。
最後に、辻から、夢を実現したいと思っている日本の若い人たちに、励ましの言葉をもらった。「よく言っているのが、とりあえず1回、1か月でも海外に行って住むべきだということです。それと、自分がやりたいことをちゃんとやり続けることが一番大事。誰に何を言われても、親や兄弟、家族に何を言われようと、やりたいことがわかっていたら、影響されずに、それをやり続けないとだめですね」。(取材・文:細谷佳史・吉川優子)