ウェス・アンダーソン監督最新作『犬ヶ島』の立役者、野村訓市とは?
映画『グランド・ブダペスト・ホテル』のウェス・アンダーソン監督の新作『犬ヶ島』(5月25日 日本公開)について、原案・声優を務めた野村訓市が、3月21日(現地時間)、ニューヨークのザ・ペニンシュラ・ニューヨークで語った。
本作は、近未来の日本の架空都市「メガ崎市」を舞台に、犬インフルエンザの蔓延によって犬ヶ島に隔離されてしまった愛犬スポッツを捜す少年アタリ(コーユー・ランキン)と5匹の犬たちの壮大な冒険を描いた作品。野村はメガ崎市の小林市長の声を務めた。
ウェスとの出会いについて野村は、「ソフィア・コッポラ監督の『ロスト・イン・トランスレーション』のロケーションを手伝って出演もしたんですが、その時、彼女から日本に来る友人を案内するよう頼まれたんです。3日間くらい連れ回していたら、彼から『映画が好きか? 僕の映画を観に来ないか?』と言われて。ようやくウェスの名字がアンダーソンだと気づきました(笑)。それまで彼の映画は観たことがあっても、どういう顔をしているのか全く知らなかったんです」と驚きの出会いを明かした。
パリやニューヨークに行くと食事をしていたそうで、「ウェスから『ダージリン急行』に出演しないかと誘われたのですが、ちょうど子供が生まれる前で断ったんです。その後も、日本で彼の作品が公開される時は、必ず連絡が来て、『どうやってプロモーションすれば良いか』と聞かれ、手伝っていました」と野村。今回は、アンダーソン監督から、「日本の映画を作ろうと思うから、手伝ってくれないか?」と言われたのがきっかけだそうだ。
本作は、アンダーソン監督、ジェイソン・シュワルツマン、ロマン・コッポラの3人が当初企画を話し合っている中で、「犬と男の子の話を作るというのなら、日本を設定にしよう」となったらしく、「そこに僕が加わったんです。具体的には、彼らから『こういうビジュアルが欲しいんだけれど、どう思う?』と尋ねられましたね。僕はインテリアデザインやファッションのブランディングもやるので、ウェスが参考にしたい資料をたくさん持っていたわけです。それに今では、ウェスの好きなものが大体把握できるようになっていました」と話す。アンダーソン監督作品の軸であるビジュアル面での大きなサポートは彼への信頼の高さがうかがえる。
さらに、「その後、日本語に訳された今作の脚本を渡されたんですが、ちゃんと日本語に訳されてはいるものの、ウェスの作品がもたらすオフビートな感覚がありませんでした。彼は独特な映画作りをするため、日本語の字幕を短くして、意味が通じれば良いというものではありません。繰り返す面白さや細かさとか、そういう部分が脚本には抜けていたので、『やり直すぞ!』と決心しましたね。それからは、どんどん時間が経過していきました」と野村。
絵コンテやパペットも作ったそうで、「絵コンテで紙芝居を2時間分作り、そこでセリフをいじったり、調節したりしました。それからようやくパペットができて、撮り始めたんですが、そこでまたこのシーンはいらないとか、変更したこともありましたね。まぁ、とにかく時間かかりました(笑)」とアンダーソン監督らしいこだわりの強さが見られるエピソードを明かした。
また、夏木マリ、野田洋次郎、松田龍平、松田翔太、山田孝之、村上虹郎らのキャスティングも野村が担当したという。「皆、友人で、役の年齢とか、どういうことをやるのかとかを決めました。ウェスの(俳優陣の)チームは互いが知っていて、(撮り直しのために)いつも簡単に集められるところもあって、そこで日本人キャストも、なんとなくお互いが知っているような、ゆるいつながりのある人たちを集めたんです」と説明した。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)