女優ミシェル・ウィリアムズを突き動かすもの
14歳で女優デビューし、『ブロークバック・マウンテン』『ブルーバレンタイン』『マンチェスター・バイ・ザ・シー』など、人々の心をつかむ優れた作品に数多く出演してきたミシェル・ウィリアムズ。最新作『ゲティ家の身代金』では、巨匠リドリー・スコット監督とタッグを組み、元義父が大富豪であるばかりに息子を誘拐されてしまう母親を熱演した。豊かな感情表現を強みにして輝かしいキャリアを築いてきた彼女に、女優業との向き合い方について聞いた。
『ゲティ家の身代金』は、1973年に起きた大富豪ジャン・ポール・ゲティの孫の誘拐事件に基づいたクライムサスペンス。ミシェルは、息子をさらった誘拐犯と、その身代金の支払いを拒否する元義父の間で板挟みになってしまう母親ゲイル役を務めた。今作で難しかったのは「ゲイルは壁にぶつかったかと思えば、また壁にぶつかる、というように、何度も同じシチュエーションに陥ることになる。そこには驚きもあれば、期待感もあったり。どうやって、その似たような展開を全く同じにならないように演じ分けていくかが大変だった」と明かす。しかし、その複雑さゆえに演じてみたかったとも言い、「私は(インディペンデント映画の巨匠)ジョン・カサヴェテスの作品が好きなの。彼の作品でジーナ・ローランズが演じている役とか。だから私も、複雑な感情がレイヤーになっているキャラクターを演じるのが好きなの」と顔をほころばせる。
そんなミシェルは近年、日本でも大ヒットしたヒュー・ジャックマン主演のミュージカル映画『グレイテスト・ショーマン』や、スパイダーマンの宿敵・ヴェノムを主人公にしたヒーロー映画『ヴェノム』(12月日本公開)など、ジャンルをまたにかけて活躍している。出演作を決める要素の一つが、「脚本と恋に落ちるか」なんだそう。「“この役をやりたい”って思うときには、脚本を読みながらどう演じるかということを頭の中で考えはじめているわ。その役を射止めるまえからね」と笑うミシェル。「車を運転しているときも、シャワーを浴びているときも、スーパーで買い物しているときも、彼女ならこのときどうするんだろう? なんであのとき彼女はこう言ったんだろう?」と気づけば思いを巡らせているのだとか。
しかし、『ブロークバック・マウンテン』で共演した故ヒース・レジャーさんとの間に娘がいるミシェルにとって、クリエイティビティーを刺激するような内容であることと同時に、家族の役割を両立できるか、一家の大黒柱として家計を支えられるかどうかも作品選びの大きな要素になっているという。「その3つの基準が満たされることはかなりまれだけど。クリエイティブ的にも、家族にとっても、経済的にも良いっていうのはね。でもその3つで天秤をかけているのは確かね」「たまにものすごくクリエイティブでやるべきだと思う作品がある。残り2つにあてはまらなくても、絶対にやりたい、やらなきゃいけないって思ったときは、娘に相談するの。たいていはそれでうまくいくのよ。逆に、私に家族がいることが役にとって有意義なこともある。例えば、『グレイテスト・ショーマン』は12歳の娘を持つ母親役で、私の娘もちょうど12歳だったから、『すごい、パーフェクトね!』って思ったの」。「母親になるって、サインをしたことがない契約のようなものなの。私にとって娘がすべてね。私が彼女の母親であり、私は彼女を守り、育てるためにいるんだって。彼女が自立できるようになるまで、おそらくあと6年くらいだけどね」と母親の顔も見せていた。
最後に、子役時代からスタートした長いキャリアを振り返って、「小さい女の子がたいてい“女優になりたい”って思うように、私もその中の一人だった。自分は女優になるんだっていう運命的なものを感じたわけではなかったのよ。でも、気づいたら、一番練習するようになっていたのが演技で、もちろん練習を重ねればそれ相応に上手くなって、そうするとより演技が楽しくなってくる。それから30年近く経った今もこうして演技を楽しんでいるなんてね!」と笑顔を見せるミシェルだった。(編集部・石神恵美子)