イザベル・コイシェ監督を直撃!注目の新作を語る
映画『エレジー』『しあわせへのまわり道』のイザベル・コイシェ監督が、新作『ザ・ブックショップ(原題)/ The Bookshop』について、8月21日(現地時間)、電話インタビューに応じた。
本作の舞台は、1959年のイギリス。夫を亡くした中年女性フローレンス・グリーン(エミリー・モーティマー)は、海岸沿いの小さな町で古びた家を改装して、念願の本屋を開く決意をするが、よそ者のフローレンスは周囲から反対を受ける。なんとか開店にこぎつけ、経営もうまくいき始めるが、アートセンターの建設を企てる町の指導者ガマート夫人(パトリシア・クラークソン)が、フローレンスを追い出すために、あれこれ画策する。作家ペネロピ・フィッツジェラルドの同名小説をコイシェ監督が映画化した。
主人公の頑固な部分が自身にとても似ていたのが原作に惹かれた理由と語るコイシェ監督。「彼女は自分の行いが人々の手助けをしているという、多少ナイーブな価値観を持っているの。ただ、そんな彼女の価値観は、憎しみや拒絶の波に押しつぶされてしまう。原作ではそれを感傷的に描いていなかったことが、わたしが原作を気に入った理由だったわ」と話す。映像化する上で、脚本も担当したが、内容に一貫性を持たせるために、原作に含まれている超自然的な存在を省くことを決めたそうだ。「原作は結構暗めのエンディングになっているの。映画では新鮮な空気を取り入れ、希望が持てそうな終わり方にしたわ」。
劇中、フローレンスがビル・ナイ演じる謎の老人エドムンドに、作家レイ・ブラッドベリの「華氏451度」を薦めるシーンがあるが、その本は、青春時代のコイシェ監督に影響を与えた作品だという。「ちなみに今作のナレーションを務めているのは、フランソワ・トリュフォー監督が手掛けた『華氏451』でヒロインを演じていたジュリー・クリスティなの。だから、トリュフォー作品にオマージュする意味で、あの本を紹介したのよ。『闇の左手』『所有せざる人々』などを執筆した作家アーシュラ・K・ル=グウィンにも影響を受けたわ」。
演技派の主要キャスト陣については、「エミリーのこれまでの作品を観てみると、彼女はいつも脇役として素晴らしい演技を披露しているけれど、主役としての印象があまりないと思ったの。だから、彼女を主演に据えてみたわ。彼女はとてもスマートで、デリケートな女性だったわね。ビルには、辛辣(しんらつ)なジョークで笑わせてもらったわ。彼がいるだけで、現場が明るくなるの。パトリシアは、これが3作目のタッグになるけれど、彼女には前作に出演してもらった際に『次は悪役を依頼するわ』と伝えていたの。今作で、見事に性根の悪い女を演じてくれたわ」とそれぞれに称賛を送った。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)