北川景子、「西郷どん」で篤姫に寄り添った一年
現在放送中の大河ドラマ「西郷どん」に天璋院(篤姫)役として出演している女優・北川景子。大役を「ただ一つの役柄を演じた以上のものがあった」と表した言葉の裏には、どんな思いがあったのだろうか。
混沌とした幕末期も、いよいよ大詰めに差し掛かり、あくまでも“武力討幕”を掲げる新政府軍に対して、旧幕府軍は徹底抗戦するのか、それとも江戸城を無血開城するのかという大きな決断を迫られる。そのキーパーソンになるのが、薩摩藩から徳川第13代将軍・徳川家定の正室となった天璋院(てんしょういん)だ。
この大きな局面に、鈴木亮平演じる西郷吉之助(のちの隆盛)と天璋院は十数年ぶりに再会を果たす。北川は「普通の立場で会えたわけではないですからね」と新政府側と旧幕府側という敵味方での関係性に言及するが、それでも「お稽古場で鈴木さんとお会いしたとき、立場抜きに懐かしいような、共に時代を生き抜いてきた同志のような気持ちが生まれたので、その感じが出せればいいなと思って演じました」と撮影を振り返る。
天璋院は、劇中、登場回数こそ多くはないが、幕末の歴史上で果たす役割は非常に大きい。北川にとっては、要所で登場するたびに、空白の時間を天璋院の“成長”として表現し、視聴者を納得させなければいけないという難易度の高い役柄だ。「一番気をつけたのは、時間の経過と共に立場や身なりが変わっていくので、一つのキャラクターとして違和感を与えてはいけないということ。そこは課題として持っていたので、篤姫に関しては、描かれていない時間の歴史的事実をしっかり学んで、想像を膨らませて挑みました」
昨年秋のクランクインから、年明け2~3月、そして今年の夏と、撮影期間は飛び飛びでありながら、約1年にわたって大河ドラマの世界に身を置いた。その間には、映画やドラマの撮影が入ることもあったが「いつ呼ばれてもすぐに天璋院に戻れるように」と常に心の片隅に寄り添っていたという。
北川にとって初の大河。しかも、役柄は、これまで佐久間良子、富司純子、菅野美穂、宮崎あおいら錚々たる女優たちが演じてきた歴史上の人物。撮影前には「とても敷居が高い」と不安に襲われることも多かったというが、大河ドラマの現場は「歴史と伝統を受け継いでいるプロの職人たち」の集まりで、嫌が応にも大きな刺激を受けた。放送が開始されると、無邪気さと芯の強さを持った天璋院を、瑞々しくかつ上品に演じ、多くの賞賛を受けた。北川自身もそんな反響に「励みになり、自信になりました」と笑顔を見せる。
「デビュー作(『美少女戦士セーラームーン』)で4クールという撮影を経験して以来の長丁場でしたが、本当に終わりたくないと思いました」とクランクアップが名残惜しかったことを明かすと、「ただ一つの役柄を演じた以上のものを得られました。俳優を頑張って続けてきて良かった」と感慨深げ。さらにキリっとした視線を向けると「またぜひ大河ドラマという空間を味わいたいです」と次なる目標を掲げていた。(取材・文:磯部正和)