アメリカを代表する画家アンドリュー・ワイエスの魅力に迫るドキュメンタリー、監督を直撃
20世紀のアメリカを代表する画家、アンドリュー・ワイエスを題材にしたPBS(公共放送サービス)のドキュメンタリー「ワイエス(原題) / Wyeth」について、グレン・ホルステン監督がE-mailインタビューに応じた。
【作品写真】アンドリュー・ワイエスの絵画に着想を得た映画『ヴェラの祈り』
ワイエスは、生涯を自宅のあるペンシルベニア州の生地チャッズ・フォードとメイン州クッシングの二つの場所で過ごし、その地に住む人々や風景を描いた。本作では、体に障害のある女性や黒人の中高年男性を描くなど、ワイエスがリアリズムを代表する画家になっていく過程を映し出している。
ティーンエイジャーの頃に、ニューヨークのMoMA(ニューヨーク近代美術館)で、ワイエスの絵画「クリスティーナの世界」に目がくぎ付けになったことが、彼にハマったきっかけだというホルステン監督。「その絵のポストカードを買って、大学の寮の部屋に貼っていたのを覚えているよ。その後、1990年代の初期にワイエス本人から許可を得たドキュメンタリー映画『スノウ・ヒル(原題) / Snow Hill』に、アシスタント・ディレクターとして参加したんだ。あの映画を通して、ワイエスの世界に入り込み、実際にペンシルベニア州のチャッズ・フォードに住むアンドリュー&ベッツィー・ワイエス夫妻の家まで足を運んだんだ」。そこで彼の作品群に親しんだことが、今作のきっかけになったそうだ。
彼に多大なる影響を与えた人物として、父親であり、本の挿絵画家のN・C・ワイエスがいる。「N・C・ワイエスは、アンドリューにとって素晴らしいアートの先生であっただけでないんだ。絵画以外に、(戦争の)戦利品、衣装、頭蓋骨などがアートスタジオに置かれていたことで、想像を含まらせることができるような遊び場となっていて、彼の好奇心や探究心を養うきっかけを作っていたんだよ」。こうして想像力を膨らませることに磨きをかけたワイエスは、後に2か所だけで暮らしながらも、想像力で人々を魅了する作品群を生み出していったのだ。
アメリカのリアリズムの画家として知られるワイエスだが、抽象画家との関係について、ファンだったのではないかとホルステン監督は語る。「時々、彼ら(抽象画家)のことをまるで親族のように感じていたこともあったと思うんだ。実際に、彼は『僕は無頓着なところがあって、(僕自身は)明確で一点の曇りもないような絵画に仕上げているつもりだが、出来上がった絵画は、案外、フランツ・クライン(抽象表現主義の画家)と共通点がある作品があると思う』と語っているくらいだよ」。
ワイエスの妻で、ビジネス面では彼のマネージャーであったベッツィーについては、「彼のキャリアにおいての成功は、ベッツィーとの関係が重要な鍵だ。今作に出演したワイエスの友人が『アンドリューは、電気代を払う心配を一度もすることはなかった』と語っているように、ベッツィーは毎日の世話をするだけでなく、(マネージャーとして)クリエイティブ面でもしっかり彼の作品をチェックしていたし、彼について書かれた書物や世間が共有するイメージもコントロールしていたんだ。だから、自由に探求しながら、絵画を描くことができ、それだけを彼は仕事にできたんだ」と二人の切り離せない関係を説明した。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)