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白石和彌監督、日本映画界の巨匠たちのぶっ飛び伝説を語る!

撮影現場での白石和彌監督。
撮影現場での白石和彌監督。 - (C) 2018若松プロダクション

 『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『孤狼の血』と、狂気とバイオレンスをミックスさせたエンターテインメントで日本映画界に斬り込んできた白石和彌監督が、最新作『止められるか、俺たちを』への思いを語った。

【動画】アツく激しい『止められるか、俺たちを』予告編

 本作は、2012年に逝去した若松孝二監督が代表を務めていた若松プロダクションが、若松監督の死から6年ぶりに再始動して製作した記念すべき作品。1960年代末、若松プロダクションで助監督を務めていた実在の人物・吉積めぐみから見た、若松孝二と若松プロで映画づくりに没頭していた若者たちの姿を描く。ヒロインのめぐみを門脇麦が演じ、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』など、晩年の若松監督作品の看板俳優となった井浦新が若松監督を演じる。

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 劇中で描かれるのは、映画づくりがまだまだ自由だった頃の日本映画界。今のようにスポンサーや観客からのクレームを気にしながら、コンプライアンスにがんじがらめになった状態で製作する映画と違い、当時の若松プロがどれだけ情熱的に、そして時に無謀なやり方で映画を撮っていたのかが映画を観れば一目瞭然だ。白石監督は「映画では描いてないのですが、昔は高速での検問シーンをとった監督もいたらしくて。すごいでしょう(笑)。今ならすぐにネットニュースに載って、謝罪会見しなくちゃだけど、その頃は『いい絵が撮れた! 酒飲もう!』ってなる。すごい時代です」と彼らの自由さに強烈な魅力を感じたという。

 劇中でも、若松プロにいた秋山道男がめぐみに「助監督の仕事を教えてやる」と言って、調達という名の万引きやピンク映画の女優探しをするなどとんでもないシーンが登場し、思わず吹き出してしまう。白石監督によると、原宿の万引き王と呼ばれた秋山は、かつて『新宿泥棒日記』を監督した大島渚に泥棒の仕方を指導したという伝説もあるそうで、巨匠たちにまつわるぶっ飛び伝説は枚挙にいとまがない。

 前述した秋山や足立正生荒井晴彦ら、この映画には今も映画界で活躍する若松プロのエースたちが登場する。だが、なぜ主人公が若松監督でも、若松プロの有名OBでもなく、めぐみだったのか。そこには、「僕は今なんとなく監督になれたし、この映画に出てくるほとんどの登場人物はみんな映画界に名を残せた人ばかり。でも、本当はその裏で何倍もの人が辞めていった。でも彼らが映画の中に足跡を残したのは紛れもない事実で、めぐみさんのように何者かにはなれなくても、確実にそこにいた人はたくさんいるんです。それは勝ちでも負けでもないってことを、めぐみさんを通して伝えたかった」という、映画界を去った多くの戦友を見送った白石監督の思いがあった。

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 「何者かになりたい」という思いとは裏腹に、夢破れる若者は夢が実現する者よりも何倍も多いはず。これは映画界には限らず、どんな世界でも去る者はいる。白石監督は、Netflixオリジナルドラマ「火花」を手掛けたとき、芸人の世界にも共通するものを感じたという。「みんなが成功するわけではなく、諦めて去っていく人もいるけど、彼らは決して負けたわけじゃない」と熱を込めて語る白石監督は「ダメだ、この話をすると」と声を詰まらせた。

 めぐみが若松監督に怒鳴られながらも助監督として駆けずり回った青春の日々と、彼女が支えた映画は確実にこの世に残っており、劇中に出てくる当時のスタッフたちの集合写真は、まるで彼女がこの世にいたことの証のようだ。

 めちゃくちゃで自由、その衝動が若者の心を揺さぶっていた若松監督の映画づくり、仕事への情熱、そして挫折。白石監督は井浦や山本浩司藤原季節らこれからの日本映画界をリードしていく若手俳優たちとともに本作を作り上げ、当時の若松プロを再現した。今、若松監督の黄金期を知る若者は少ないかもしれないが、たとえ知らなくても、ヒロインの青春を通して何かを感じるだろう。(取材・文:森田真帆)

映画『止められるか、俺たちを』は10月13日より全国公開

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