京アニ『リズと青い鳥』音楽ライブ用音響機材でこだわりの音を再現
このほど開催された第5回新千歳空港国際アニメーション映画祭で『リズと青い鳥』が招待上映され、制作会社「京都アニメーション」の山田尚子監督が舞台挨拶を行った。今回の上映は音楽ライブ用の音響機材を使っての上映で、観客と一緒に鑑賞した山田監督は「たぶんテレビ放映ではカットされてしまうような音域もきっちり聞こえていて、(映画の)世界に入り込んでしまいました」と感激しきりの様子だった。
同作は、武田綾乃原作の小説「響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章」が原作。自由曲「リズと青い鳥」で掛け合いをすることになったオーボエ担当のみぞれとフルート担当の希美の、なかなか噛み合わない2人の音と心を繊細に描いた物語。吹奏楽をテーマにしているだけにサクソフォーン奏者で洗足学園音楽大学准教授の大和田雅洋が監修にあたり演奏シーンそのものへのこだわりは言わずもがな、随所に臨場感あふれる音響設定が施されている。
山田監督はまず最初に、『映画 「聲の形」』(2016)でも組んだ音楽の牛尾憲輔とどういう視点で制作を進めていくか話し合った際、「みぞれでも希美でも他の誰でもなく、彼女たちを見守る学校という容器がわれわれにとって正しい位置なのではないか」という結論に至ったという。そこで牛尾たちは小説のモデルになっている高校に出向き、机や椅子、ピアノ、音楽室の窓などをたたいたり、廊下の反響音などを録音。
さらに少女の目線にグッと寄り添う感覚の映画にしたいと、呼吸やまばたき、衣擦れなど、音響効果の倉橋裕宗が作った効果音も生かされており、山田監督は「誰が誰の仕事か分からないくらい異常な状態の音響設定になっています。音楽と絵コンテも同時進行でやっているような状態で、すごく面倒くさかったような。次はもうちょっと賢くできるんじゃないかと思います」と苦笑いしながら制作裏話を明かした。
しかし、そのこだわりが奇跡を生んだという。噛み合ってないみぞれと希美は歩く速度も異なり、ずっと違う歩幅で歩いているが、同じせりふを口にする最後の4歩だけ噛み合う。山田監督は「牛尾さんと“ずっと合わない2人の歯車がループしていくうちに一瞬、噛み合うような設計で音楽を作れたら最高ですよね”と話していたけど、それがあのシーンで奇跡的に合った。希美とみぞれがやってくれた! とビックリしちゃって」と興奮気味に語った。
山田監督は前作『映画 「聲の形」』が第40回日本アカデミー賞で優秀アニメーション作品賞などを受賞したほか、海外でも公開されるなど国内外で注目を浴びている。『リズと青い鳥』も世界4大アニメーション映画祭一つであるフランス・アヌシー国際アニメーション映画祭で招待上映され、先ごろ発表された報知映画賞アニメ作品賞にノミネートされた。
今後について山田監督は「これからもアニメーションでチャレンジしたいことがたくさんあります。またどんどんチャレンジして、面白い作品を作っていきたい」と語り、新千歳空港国際アニメーション映画祭にまた戻ってくることを観客に誓った。(取材・文:中山治美)