黒木華、中島哲也監督のホラー『来る』で試練 自然体でいる難しさ
女優の黒木華が、澤村伊智の小説「ぼぎわんが、来る」に基づくホラー映画『来る』(12月7日公開)で、『告白』の中島哲也監督と初のタッグを組んだ。作品のクオリティーを追求するゆえに、キャストへの演出が厳しいことで知られる中島監督だが、撮影の日々を振り返り「役として自然体でいる」という初の試練に直面したことを明かした。
これまで舞台では劇作家の野田秀樹、演出家、映画監督の故・蜷川幸雄さん、映画では山田洋次監督、岩井俊二監督、細田守監督らのもとで実力を磨き、2014年にはベルリン国際映画祭で、史上最年少となる最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞するなど、演技派として知られる黒木。最新作『来る』で演じるのは、育児ノイローゼ気味の主婦・香奈。妻夫木聡演じるイクメンの夫・秀樹とともに、正体不明の脅威に見舞われる設定だ。2013年放送のドラマ「リーガルハイ」の弁護士、映画『幕が上がる』(2015)での熱血高校教師などエキセントリックな役も演じてきているが、本作では「これまであまり見せたことがない表情に挑んだ」という。
「過去にも母親役を演じたことはありますが、良妻賢母な役が多かったので、香奈のように子どもにきつく当たってしまう母親役は初めてでした」
今回、最も黒木が苦戦することになったのが「演じようとしない」難しさ。中島監督からは「香奈が変わっていく片りんを見せないでほしい」「何かをしようとしないでほしい」と言われ続け、「へたくそ」「舞台みたいな芝居をしないでほしい」という厳しい言葉もあった。
「香奈は育児ノイローゼに陥っている設定なので、『疲れている』ということは常に意識していましたが、演じようとしない、というのが難しかったです。『今こういうシーンだから、こういうふうにやろう』と頭で考えずに、役として自然体でいることをすごく考えた現場でした。
時に落ち込むこともあったと言い、監督の要求に応えられない自分を責めることも。「言ってくださるということは改善の余地があるということ、少なくともあきらめられてはいないことがわかりましたし、とてもありがたかったです。中島監督は厳しい方だと言われていますが、ものすごく愛があり、きちんと見てくださっているからこそなのだと思います。ですから、わたしは今回、中島作品に参加してさらに監督のことが好きになりました」
今年、主演作の『日日是好日』『ビブリア古書堂の事件手帖』のほか声優を含めると6本の映画が公開。現在、連続ドラマ「獣になれない私たち」(日本テレビ系)も放送中だ。忙しく過ごした一年について「あっという間の一年でした。休むことの大切さに気付いたり、自分にはこの仕事が向いてないんじゃないかとネガティブな考えになることもありましたし、いろんなことを感じました。常に不安な気持ちはつきものですが、経験が自分の糧となり、引き出しになっていると思うので『頑張ろう』と思うのですが、自分のしてきた仕事を顧みると、果たして一つ一つの仕事をきちんとできているんだろうか、と自問自答することもあります」と冷静に振り返る。
一方で「それでも体力だけは自信があるんです。今年は作品数が多く、周囲の方も心配してくださいますが、皆さんが思うよりは余裕なんです」と笑顔を見せた。(取材・文:編集部 石井百合子)