日本アニメ映画2019年の傾向を占う
ひと口に「アニメ映画」といってもその内実はさまざまで、日本製アニメ映画は大きく4つのカテゴリーに分けることができる。2018年のアニメ映画を例に各カテゴリーに分け、そのカテゴリーから2019年の日本アニメ映画の傾向をみてみよう。(文:藤津亮太)
4つのカテゴリーに分けてみると…
カテゴリー1は、全世界興行収入が100億円を超えるヒットとなった『名探偵コナン ゼロの執行人(しっこうにん)』のような、テレビシリーズを前提に年1回のペースで定期的に制作される作品。
カテゴリー2は、『劇場版 のんのんびより ばけーしょん』のように人気のテレビシリーズの続編や番外編といった趣向で制作される、スペシャルな1本。カテゴリー3は先日ゴールデン・グローブ賞にノミネートされた『未来のミライ』のように、作品単体で成立し、監督が作家としてフィーチャーされるタイプの作品。カテゴリー4は、本来はOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)やテレビシリーズとして制作されているが、ファーストウィンドウ(作品の最初の放送配信権利)として映画館を選んだ『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』のような作品。
この4つのカテゴリーは、それぞれのビジネス的な狙いや背景の違いが反映された結果として生まれている。そして近年のアニメ映画の本数が年間80本以上というかなりの数で安定しているのは、各カテゴリーがそれぞれの理由で活況を呈していることの反映だ。この傾向は2019年も変わらず続きそうだ。
【カテゴリー1】テレビシリーズを定期的に映画化
カテゴリー1での注目作はやはり4月12日公開の『名探偵コナン 紺青の拳(こんじょうのフィスト)』。ここ6作品連続で、シリーズの興行成績を塗り替えてきた長期シリーズが、どんな切り口で最新作を盛り上げてくるのか楽しみだ。また『コナン』と同じく2018年に過去最高の興行成績を上げた『映画ドラえもん』は、直木賞作家の辻村深月が脚本を担当する『映画ドラえもん のび太の月面探査記』を3月1日に公開する。また夏の映画『ポケットモンスター』は劇場版第1作との関連を思わせる『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』というタイトルになっている。
また定期的に製作されてはいないが、人気シリーズの映画化という点で昨年12月公開の『ドラゴンボール超(スーパー) ブロリー』や、2月8日公開の『劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>』、8月9日公開の劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』といった原作が週刊少年ジャンプ連載の作品群も話題となりそうだ。
【カテゴリー2】テレビシリーズの続編や番外編をスペシャル版として制作
カテゴリー2では、1月4日公開の『ラブライブ!サンシャイン!! The School Idol Movie Over the Rainbow』、2月9日公開の『コードギアス 復活のルルーシュ』に期待がかかる。人気シリーズの劇場版で、いずれも「ラストシーンのその先」を描く趣向だ。一度終わった作品のその先にどのような物語を紡ぐか、ファンの期待は大きい。
【カテゴリー3】監督が作家としてフィーチャーされる作品
カテゴリー3は今年も注目作が並ぶ。1月25日公開の『あした世界が終わるとしても』は、2018年秋のテレビアニメ「イングレス」を監督した櫻木優平監督のオリジナル作品。母の死が原因で心を閉ざしがちな高校生・真の前に、「もうひとつの日本」からやってきた「もうひとりの僕」が現れる……といった、枝分かれした時間軸の異なる世界での展開に期待が高まる。
さらに6月には『夜明け告げるルーのうた』(2017)の湯浅政明監督による『きみと、波にのれたら』、7月には『君の名は。』の新海誠監督の『天気の子』、9月には「ソードアート・オンライン」の伊藤智彦監督が初のオリジナル劇場アニメーションに挑む『HELLO WORLD』がある。奇しくも3作品ともにラブストーリーとして、2018年に続き次世代を担う監督たちの作品が並んでいる。
【カテゴリー4】最初の放送配信権利を映画館とした作品
カテゴリー4だと、2016年に異例の大ヒットを記録した『劇場版 KING OF PRISM by PrettyRhythm』 のシリーズ作『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』が3月に登場する。本作は、テレビシリーズ全12話を劇場編集版4作品に編集し、テレビ放送に先駆けて劇場で上映するという企画。熱心なファンに支えられたシリーズだけに映画とテレビの相乗効果で、また大きな話題を呼びそうだ。
ハリウッド作品以外もある注目の海外作品
こうした日本製アニメ映画だけでなく、海外作品もさまざまな作品が控えている。近年、海外では長編アニメーション制作が盛んになっており、ハリウッド作品以外でも個性的な長編アニメーションが登場しているのだ。
注目の海外長編は、台湾の宋欣穎(ソン・シンイン)監督による『オン ハピネス ロード(英題) / On Happiness Road』(2017)。東京アニメアワードフェスティバル2018(TAAF2018)でコンペティション部門のグランプリ作品に選ばれた本作が、公開時期は不明ながら、先日日本公開が発表された。同作は台北郊外に実在する街「幸福路」を舞台に、少女の成長を、現代台湾の歴史を織り交ぜながら描いた作品で、あらゆる国の人に通じる普遍的なテーマを描いている。
日本は世界の中でも長編アニメーション制作の盛んな国だ。だがさまざまな国で長編が制作されるようになった現在、世界の中でどのように「日本のアニメ映画」を位置づけていくかを考えなくてはならない時代に入ったといえる。少子化により国内市場が縮小傾向にある以上、世界を意識しつつ、どんな題材をどう作り、どうプレゼンテーションしていくかはこれからぐっと重要になっていくだろう。(数字は「アニメ産業レポート2018」日本動画協会調べ)