『バーニング 劇場版』監督、スティーヴン・ユァン起用の経緯を明かす
村上春樹の短編小説「納屋を焼く」を大胆に解釈した映画『バーニング 劇場版』(公開中)について、イ・チャンドン監督が、2月1日(現地時間)ニューヨークの近代美術館(MOMA)で行われた特別上映後のQ&Aで語った。
本作は、主人公の周囲で起こる不可解な出来事を、韓国の現代社会に生きる若者の無力さや怒りを織り交ぜながら描いたミステリー。小説家を目指しながらアルバイトで生計を立てているジョンス(ユ・アイン)は、幼なじみのヘミ(チョン・ジョンソ)からアフリカ旅行へ行くのでペットの猫を預かってほしいと頼まれる。帰国したヘミに旅先で出会ったベン(スティーヴン・ユァン)を紹介されたジョンスは、ベンから秘密を打ち明けられ、恐ろしい予感が頭から離れなくなる。映画『ポエトリー アグネスの詩(うた)』のチャンドン監督がメガホンを取った。
本作の映画化のきっかけは、NHKから村上春樹の短編を映画化しないかというアプローチをかけられたことだったという。「原作は小さな出来事が起こる設定で、ある男が納屋に火をつけて焼くという趣味を持っていることを告白するが、その話を聞いた男は、彼が実際に納屋を焼いた過去があるのかわからないという、とてもシンプルな構成だ。ミステリーの構成で、エンディングも何が正しいのか定義づけられていない。僕自身は、そんな曖昧なエンディングが好きだったんだ。だから、そんな小さな出来事を、映像的に拡張して描く気になったんだ」原作が短編ということもあり、脚色する上で自由な解釈をすることができたと明かした。
だが、原作に関する著作権の問題で約1年撮影が遅れたことで、最初にキャスティングしていた俳優たちを起用できなくなってしまい、新たな俳優を探さなければならない状況になってしまったという。「そんなとき、今作の脚本のパートナーが、スティーヴンをキャスティングすることを勧めてくれたんだ。スティーヴンは『今作に出演できたのは運命だった』と言ってくれているが、僕も運命的に彼をキャスティングできたと思っているよ」とスティーヴンとのタッグを振り返った。
人生の意味を見失うことをテーマとして探索していることについては「ベンはお金もあり、女性もいて、なんでもできるように見えるが、彼は(何にも満足できない)中身が空っぽの人生を過ごしている。一方、ジョンスはちゃんとした仕事を探さなければならず、将来に関しても不安を抱えている。彼自身もまた心の中が空っぽになっている。そんな感情は、今日の若者に当てはまる気がするんだ。そしてヘミは、借金があって、お金を稼がなければいけない状況にあるけれど、そんな状況下でも人生においての意味合いを探索している。彼女はベンとジョンスの心の中の確固たる場所に存在しているんだ」と説明した。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)