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希林さんも来るはずだった!「日本映画の100年」

『モリのいる場所』の沖田修一監督(フランス・パリ日本文化会館)
『モリのいる場所』の沖田修一監督(フランス・パリ日本文化会館)

 フランス・パリで開催中の大規模日本映画回顧上映「日本映画の100年」の第3部「現代監督特集」で映画『モリのいる場所』(2017)がパリ日本文化会館で上映された。出演者の樹木希林さんは昨年9月に他界したが、同回顧上映に多数の作品が選ばれていることから2年前に参加を打診したところ、パリに来ることを楽しみにしていたという。同会館の映画担当ファブリス・アルデュイニは「今回の上映が希林さんのレトロスペクティブ(回顧上映)のようになってしまいました」と寂しげに語った。

 同回顧上映の中で希林さんの出演作は、『はなれ瞽女おりん』(1977)、『大誘拐 RAINBOW KIDS』(1991)、『わが母の記』(2011)、『海街diary』(2015)、『モリのいる場所』の5本が選ばれている。また昨年11月23日~2019年1月6日(現地時間)までポンピドゥ・センターで開催された河瀬直美監督特集でも『あん』(2015)と『』(音声ガイド対応、2017)が上映され、改めて希林さんの映画界への貢献度がわかる。

沖田修一
樹木希林さんに見守られながらトークをする沖田修一監督

 『モリのいる場所』の上映後に行われたトークイベントで沖田修一監督は、主人公モリの妻を演じた希林さんの思い出を尋ねられると「炎天下での撮影でしたけど、お元気でした。縁側のところに椅子が置いてあって、寝てるのか、ゆっくりしているのかわからない状態でいつも自然に座っていらして。ずっとその場にいるので、撮影をしていなくとも、その家の住人のようでした」と振り返った。

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 同作は、創作の源たる自宅の庭から約30年間ほとんど外に出ることがなかったという伝説を持つ通称モリこと画家・熊谷守一の一日を、沖田監督がイメージを膨らませてユーモアたっぷりに描いた人間ドラマ。希林さんの知名度の高さはもちろん、主演の山崎努伊丹十三監督『タンポポ』(1985)で、さらに製作幹事の日活は鈴木清順監督や今村昌平監督らを輩出したメジャー会社として、海外の日本映画ツウには知られた存在だ。

 そこで司会を務めたアルデュイニから沖田監督へ、「日本映画の黄金時代は撮影所が監督を育てていたことで知られています。今、その環境がなくなり、さまざまな制約がある中で作品を作っていると思うのですが、日本映画の現状をどのように感じていますか? フランスならば、学校で教えたり、国の助成金をもらって映画を撮るのが一般的なのですが」という問いがあった。

沖田修一
『キツツキと雨』(2011)も上映された沖田修一監督

 沖田監督は「そういう話を聞くとフランスで映画を撮りたいなと思います。でも制約がある中で撮らなければいけないというのは当たり前だと思っていて、それは自分を見極める時間でもあるのであながち悪いことでもないと思ってます。確かに悔しい思いをすることもありますけど」と語りつつ、最後に「というのは全部きれいごとで、お金が欲しいです」と茶目っ気たっぷりに本音をぶちまけて会場の笑いを誘った。

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 また会場からは影響を受けた監督や作品は? の問いがあった。沖田監督が「日本だと、山崎さんが出演した『タンポポ』の伊丹十三監督や、『家族ゲーム』(1983)の森田芳光監督がすごい好きで、10代の頃に面白がって観ていました。あと岡本喜八監督ですね。フランスだとジャック・タチが好きで、よく観ています」と『ぼくの伯父さん』(1958)などで知られるコメディーに定評のあるフランスの巨匠の名前を出すと、会場から歓喜と納得の「おぉ!」というどよめきが起こった。

 セリフに頼らずシチュエーションで笑いを誘う沖田作品は国境を超えて愛されており 、同じくパリで開催されているKINOTAYO現代日本映画祭の第8回で、『横道世之介』(2012)が最高賞のソレイユ・ドール賞を受賞している。今回の上映を機会に日本のジャック・タチとしてさらに注目が高まるかもしれない。(取材・文:中山治美)

「日本映画の100年」は3月19日(現地時間)までパリ日本文化会館などで開催中

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