『未来のミライ』細田守監督の発言に拍手 アカデミー賞イベントで
第91回アカデミー賞
『未来のミライ』が長編アニメーション映画賞にノミネートされた細田守監督が、現地時間の23日、アカデミー賞長編アニメーション映画賞の候補者たちが一堂に会する、毎年恒例のシンポジウム「オスカーウィーク:アニメイテッド・フィーチャー」に登壇。ビバリーヒルズにある映画芸術科学アカデミー(AMPAS)の本部で開催された。
シンポジウム前のレセプションで、今回オスカーに初めてノミネートされた細田監督はまず、「すごく楽しんでいます」と一言。「ただ授賞式に出ればいいのかなと思っていたら、その前にセレモニーとかたくさんあって、短編と長編アニメーションのノミニーたちと食事会をしたり、ロサンゼルスでアニメーションを作っている大物プロデューサーのパーティーに参加して親交を深めたり、アカデミー賞には授賞式だけじゃない大きなお祭りのようなムードがありますね」
今回、長編アニメーション映画賞において、ハリウッドのスタジオ作品以外で『未来のミライ』が唯一ノミネートされたことを、細田監督は「世界が多様化していることの表れではないか」と捉える。「この映画は僕の二人の子供がモデルになっている。そうしたプライベートな作品が、こういった国際的な舞台で評価されるというのはとても意義があることだと思います」
アカデミー賞の旅を通して、細田監督は多くの刺激を受けているようだ。「『スパイダーマン:スパイダーバース』の監督たちに初めて会って、彼らが非常に苦労して作品を作ったという話を聞いて、どこでも苦労してアニメーションを作っているんだということでお互いに共感し合ったり、短編の作家たちとも、『どうやって作っているの?』と仲良く話したり出来ました。昔からファンだったアルフォンソ・キュアロン監督とも会って話しましたが、とても気さくな方でしたね。すごくメキシコ人っぽくて親しみ深い人でした。今、次の作品を考えていますが、さらにいい作品にするための経験をたくさん得られる場、作り手がみんなで会って、たたえ合い、そして、それぞれがまた新しい作品作りに戻っていくというのが、僕にとってのアカデミー賞だなと感じています」
また、『未来のミライ』が本部門の中で唯一の伝統的な手描きの2Dアニメーションであることについて、細田監督は、単なる技法以上の意味があると見る。「(日本では)手描きのアニメーションというのは僕らだけじゃなくみんなやっていますが、そういったことは手法とかではなく、アイデンティティーなんですね。自分たちのものを表現するのにその技法というのが、技術が高いとか低いとかじゃなく、自分自身に密接に関わっている表現方法なんです。そしてそれをしっかりと表現をしていくことによってアニメーションが豊かになれば、と思います」
本作がノミネートされたことに「今回、ノミネーション作品の大半がアクション系の作品で占められていた中で、4歳の子供の日常を基にした作品が評価された」ことが重要だった、と細田監督。「アニメーションと言えばアクション映画、子供向けの映画と思われがちですが、実写映画と同じように、家族の問題、現代の問題、人生の問題をちゃんと表現出来るんです。アニメーションが、みなさんと一緒に感動を共有出来る映画表現に変化しているということで言えば、今回の『未来のミライ』のノミネーションは本当に意義のあるものだと思います。単に日本の作品がアカデミー賞にノミネートされたということだけじゃなく、題材的にもこういったものがアカデミー賞の器の中に入っているということの重要な意味を皆さんに知ってもらいたいと感じています」
ちなみに授賞式で楽しみにしていることについて、以下のように述べている。「僕もアカデミー会員になって投票しましたので、自分が選んだ作品と結果を照らし合わせて見るのを楽しみにしています。でも、そういった話じゃないですね(笑)。授賞式に参加するのは僕も初めての経験でどんな気持ちになるかわかりませんが、そうそうはないことなので、その素晴らしさを、ノミネートされた者として楽しみたいと思っています」
シンポジウムでは、初のオスカー・ノミネーションについて問われ、アメリカでの意外な反応について言及。「『未来のミライ』は97か国で配給されているのですが、アメリカではこの作品は理解されないのではないかと思っていたんです。子供が出てくるけど、冒険ものじゃないし、アクションもカーチェイスもない。アメリカの観客に『この映画、何もありません。ただ子供の日常を描いているだけです』と言ったんですが、それをすごく喜んでくれて、ノミネーションされることになって本当にびっくりしました」と作品が届いたことへの喜びを語った。
そして話題は、2Dのアニメーターが減少しつつある現状に及んだ。細田監督は「僕はやっぱり、美術は紙に絵の具で描くべきだし、キャラクターも手でアニメーションを作るべきだと思っているので、本当に困っています。もっと手描きでアニメーションを作る必然性のある作品があると思うんです。一昨日もNetflixの現場に行って、グレン・キーン(『美女と野獣』などを手がけた伝説的なアニメーター)さんと話したんですが、彼も手で描きたい人で、諦めないで頑張ろうという話をしてきたんです」と語ったところで、会場内に大きな拍手が巻き起こった。
今年の長編アニメーション映画賞シンポジウムには、『インクレディブル・ファミリー』のブラッド・バード監督とプロデューサーのジョン・ウォーカー&ニコール・パラディス・グリンドル、『犬ヶ島』のプロデューサーのスティーヴン・レイルズ、『シュガーラッシュ:オンライン』のリッチ・ムーア&フィル・ジョンソン監督、プロデューサーのクラーク・スペンサー、『スパイダーマン:スパイダーバース』のボブ・ペルシケッティ&ピーター・ラムジー&ロドニー・ロスマン監督、プロデューサーのフィル・ロード&クリストファー・ミラー、そして、日本から『未来のミライ』の細田守監督とプロデューサーの斎藤優一郎が参加した。『犬ヶ島』のウェス・アンダーソン監督は、フランスで撮影中のため、残念ながら参加出来なかった。(取材・文:細谷佳史、吉川優子)