山崎育三郎、いまも原点は「出待ち対応」
映画『名探偵コナン 紺青の拳(こんじょうのフィスト)』(4月12日公開)にゲスト声優として参加している山崎育三郎。本格的アフレコは『美女と野獣』(2017)以来となるが、今回は英語の台詞に挑戦。ミュージカル界で確かな地位を築きながら、30代を前にしてドラマの世界へ。2017年からはラジオのパーソナリティーにも進出し、活動の幅を広げ続けている。12歳でデビューしてから今年で21年。その原動力は、実は20代から培われたものだった。
20代の最後に大きな決断
「20代はミュージカル以外はやらないと決めて頑張ってきたのですが、30代に入るところで『下町ロケット』をきっかけにドラマに出させてもらうようになりました。大きな視聴率の番組だったので、それがきっかけで『美女と野獣』の吹き替え、さらには歌手活動も始めることができました。去年も『ミュージックステーション』でミュージカル楽曲を歌わせていただいたんですが、(ミュージカルのシーンを再現するのは)Mステ史上初のことだったそうです」
現在は枠にとらわれず幅広く活動しているが、その決断は山崎にとっても周囲にとっても“大事件”だったに違いない。
当時、山崎は「ミュージカル界のプリンス」と呼ばれ、スケジュールは数年先まで決まっているような状況だった。それを一度全て白紙にしてのドラマ出演。周囲からは心配する声もあったという。それでも本人はいたって冷静だ。
「声優だろうと、舞台、映画、ドラマ、歌手活動やディナーショー……どのジャンルも同じ感覚です。お客様がいて、自分がどういうものを表現したら、楽しんでもらえるのか。どの現場でも同じスタンスでやっているつもりです」
「出待ち対応」で芽生えたファンへの感謝が原動力
それはいつでも第一に考えるのが「お客様」のことだから。それこそまさに彼を動かすエネルギーだ。
「僕にとっては劇場に足を運んでくださる方も、『コナン』を観てくださる方もみんなお客様です。ミュージカル俳優は特にそういった意識が強いかもしれません。それが芽生えるのが出待ち対応。ほんの2、3人から始まって、10人、30人、100人と増えていくのを自分で実感します。『今日も来てくださったんだ。ありがとうございます』という感謝の気持ちはいまでも強いです。多大なモチベーションになります」
俳優という職業は個人プレーに見えて、実は誰かに支えられてできる仕事。それを忘れないでいられるのが出待ち対応なのだろう。知る人ぞ知るスターから、誰もが知っている俳優へ。彼が有名になればなるほど、ミュージカル人気も高まってきた。
「ブロードウェイやロンドンじゃないけど、日本のミュージカルを映画に行くような感覚でみんなが気軽に行けるエンターテインメントにしたい。自分に注目してもらうことでミュージカルに足を運んでもらえるような流れができたらいいなと思っています」
もうすぐ公開になる『名探偵コナン 紺青の拳』。山崎の新しい挑戦が縁で、アニメファンがミュージカルに足を運ぶことになるかもしれない。いや、そこに垣根を作ることはそもそも間違い。どちらも第一級のエンターテインメント。彼のホスピタリティーは今回の『コナン』でも大いに感じられる。(取材・文:高山亜紀、写真:尾藤能暢)