マーク・ストロングに聞く悪役の条件 『シャザム!』が描く善と悪
魔法の言葉で大人のヒーローに変身する少年の活躍を描く映画『シャザム!』(全国公開中)で、悪役・Dr.シヴァナを演じた俳優マーク・ストロングが来日。『キングスマン』の教官兼メカ担当マーリン役などでも知られる英国紳士が、撮影を振り返りながら、魅力的な悪役やヒーロー映画における善と悪の関係について語った。
『シャザム!』は、謎の魔術師から「シャザム!」と唱えて大人のスーパーヒーローに変身する力を与えられた悪ガキ少年ビリーの活躍を描いたコメディー風味のヒーロー映画。Dr.シヴァナは、人間の原罪を表す「七つの大罪」からパワーを得たオトナの悪役で、純粋な心を持つ者に力が受け継がれるシャザムとは正反対の存在だ。
「頭脳はコドモ」のビリーと違って、マークふんするシヴァナは常にシリアス。「悪役もシャザムと同じようにジョークを連発するような役だと、映画が成立しないと思ったからね」というマークだが、シャザム役のザカリー・リーヴァイや子役たちに囲まれた撮影現場でシリアスモードを維持するのは、かなりの苦労したようだ。「楽しそうにしてる子役たちに囲まれていたからね! でも、撮影が始まった瞬間にみんなを心から怖がらせないといけないから、バランスに気を付けていた。彼らとの仕事は本当に楽しくて、映画作りは楽しむべきなんだという事を思い出させてくれたよ」
子供の夢をオトナの体で叶えまくるビリーのはしゃぎっぷりや、悪友フレディとの友情も本作の見どころのひとつ。同時に、悪役であるシヴァナにもしっかりとバックストーリーが用意され、それが彼を魅力的な悪役にしている。「大切なのは、悪役というのは決して一面的な存在ではないということ。シヴァナがいかにして悪役になったのか、その背景が理解できることは、魅力の一つだと思う」
そう語るマークは、これまで数多くの悪役を演じてきた。「ヒーローというのは、敵対する悪役でレベルや強さが決まってしまう」という彼は、魅力的な悪役の条件をこう語る。「怖さ、それから陰険さ、そして何よりもパワフルであることが重要だ。ヒーローと同等か、凌駕するぐらいの力を持ってなければいけないんだ。ジェームズ・ボンド映画を観れば明らかだ。悪役がいるからボンド映画は成立する。これはコミックや映画でも同じだよ」
これまで幾度も来日しているマークが初めて日本を訪れたのは、1990年ごろ。「新宿のグローブ座でシェイクスピア劇をやったんだ。グローブ座はロンドンにできるよりも先に東京にあった(ロンドンでは1997年に再建された)んだね! 最初に来たときから興味深い国で、以来、何度も何度も戻ってきてしまう」と今回も日本を満喫している様子だ。
日本の文化にも親しんでいる彼だけに、東洋文化と西洋文化における善と悪の構図の違いに言及する一幕も。「西洋では、悪は善によって完膚なきまでに倒さなければいけない……つまりヒーローが勝利する構図が多いけれど、東洋はバランスが取れているように思える。影と光じゃないけれど、悪役を生かすというか、完全になくなりはしないという描かれ方が多いように思うんだ。それは、とても成熟した考え方に僕は感じられるし、『シャザム!』の核にも、実はそういう要素があるんじゃないかなと思っているよ」と語る。
そんな、思慮深く渋い大人の代表のようなマークだが、10代のころはビリーのように「大人になって好き勝手やりたい!」と思っていたのだろうか?「いい質問だね」と笑ったマークは、「僕は割と地方の出身で、小さな町の学校に通っていた。覚えているのは早く大人になって大都市で生活したいと思っていたこと。最初にチャンスが訪れたときにロンドンに出ていったんだ」と明かした。「スーパーヒーローにはあまり触れてこなかったけど、いろいろなものに興味があった。いろんなところに住んで、自分の機知を効かせて生活しているところなんかは、映画のなかの子供たちと似ていると思う。それに、今の役者という仕事も、いろんな場所に旅をして興味深い人に会える。そうやって、常にクリエイティブでいられるんだ」。(編集部・入倉功一)